第40話 ベルト


 ガードを開けろおらっ!

 内心でそんな事を思いながら、ガード越しでもお構い無しにジャブを打ち続ける。

 マイク選手のガードは雑だ。今までこんな風に閉じこもった事は無かったんだろうか。


 これはトレーナーさんの失態ですよ。

 いくらフィジカルモンスターだとはいえ、ボクシングってのはそれだけで勝てる程甘くない。

 ってか、OPBFで負けたのに何も成長してないって事じゃないか。そんな相手には負けたくないね。


 『皇選手のジャブが止まらない! まるで嵐の様です!! 暴風雨だー! パンチの暴風雨です!!』


 ちっ。ジャブだけじゃラチがあかないか。

 もっと時間をかけて料理して良いなら、前が見えなくなるくらいパンパンに顔を腫らしてやりたいところだったんだが。今回は1RKOを狙ってるので。

 そろそろシメといきましょう。


 『そして接近! ガードの上からでも関係ないとばかりに、連打を繰り出していきます! 残り時間は後1分!! まさかの1R決着もありえるか!?』


 歓声が滅茶苦茶聞こえる。拳聖コールが凄い。

 これに応えなきゃ男が廃るってもんよ。


 俺はワン・ツーで無理矢理ガードをこじ開ける。

 雑なガードを崩すなんて訳ないね。これならうちのスパーリング三銃士のガード方がよっぽど手強いぞ。よっぽど俺に殴られたくないんだろう。


 そして満を辞してストレートを顔面に叩き込む。

 と、思わせるフェイントを入れて、慌ててガードしようとして空いたボディに左フックを叩き込む。

 そして、そのまま右フックもボディへ。


 体がくの字になったマイク選手にお株を奪うような必殺技、右フックを最後は顔面にぶち込む。


 そしてマイク選手はマットに沈んだ。


 俺は勝ちを確信してガッツポーズ。

 審判はカウントする事なく腕を大きく振った。


 『KO!! 皇選手!! 1RKOだ!! プロ三戦目! 高校生日本チャンピオンの誕生です!!』


 「拳聖!!」


 「うぇーい!」


 俺はリングに上がってきた父さんと、いつも通りのハイタッチを交わす。

 うーん。我ながら完璧の試合だったな。ルトゥールさんに宣言した通り1RKO。

 これは楽曲にも期待出来るってもんよ。チラッとリング近くの特等席のお二人を見たら、それはもう凄い拍手をしてくれていた。

 ってか、あそこにカメラやべぇ。主役が食われそうなぐらい集まってるんだが。


 まぁ、それはさておき。

 俺はリング四方にお辞儀をしてからマイク選手を見てみる。茫然自失って状態で、自分がダウンした事すら分かってないっぽい。

 試合が終わればノーサイドって事で、挨拶に行こうかなと思ったんだけど、これはやめておいた方がいいかも。臭いし。



 って事でお待ちかねのチャンピオンベルト。

 日本チャンピオンだけども。やっぱりプロボクサーとしては、チャンピオンベルトが腰に巻かれるってのは嬉しい。


 『今! 新チャンピオンにベルトが巻かれました! 高校生チャンピオン皇! 次はOPBF、そして世界へと羽ばたいてくれるでしょう』


 「これからも応援するぞー!!」


 「またKOを見せてくれー!」


 これこれ。

 これだよね。俺が幼少期に見た父さんの試合。

 俺もこんな舞台に立ちたいと思ったんだ。

 あの頃より規模はまだ小さいけども。

 いずれは世界中から試合を楽しみにされるような、そんな選手になりたいね。

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