第38話 VSライト級マイク・大村1


 「〜〜〜♪」


 俺は鼻歌を歌いながら入場する。

 今日も学校の友達は来てくれてるし、一応母さん経由でルトゥールのお二人にもチケットは送っておいた。どこかで観てくれてたら嬉しいなぁ。


 「リラックスし過ぎじゃないか?」


 流石に気が抜けすぎじゃないかと父さんが心配して声をかけてくる。

 しかし心配は無用。


 「負ける気がしないんだよね」


 なんだろうね、この感覚は。

 考えてる事と体の動きがマッチしてるというか。

 前回の試合でゾーンに入ったっぽいのをそのまま引き継げてる感じ。

 あの会心のスリッピングアウェーで一皮剥けたのかもしれん。てってれー。皇拳聖はレベルアップした。


 そんな事を思いながらリングイン。

 会場の四方にお辞儀をして、チャンピオンが入場してくるのを待つ。

 リング脇の特等席にルトゥールのお二人が居るのを発見した。滾るな。これは無様な試合は見せられん。


 そしてチャンピオンの入場。

 チャンピオンだけあって、しっかりファンも居るらしい。舐めた小僧をぶっ殺せなんて声も聞こえますねぇ。物騒すぎるだろ。


 先輩二人の試合で冷えた会場だったけど、ボルテージはどんどん上がっていく。

 後楽園ホールだけど、いつかは東京ドームとかでやってみたいなぁ。


 「おぉ。こわ。滅茶苦茶睨んでくるじゃん」


 カッコいい音楽と共に颯爽とリングインしたマイク選手は視線だけで人を殺せるのではと思うぐらい俺を睨み付けている。

 どうやら俺のマイクパフォーマンスが余程お気に召したらしい。俺はニコニコと笑っておく。

 どうやら俺の笑顔には煽り効果があるみたいなので。


 「両者中央へ!!」


 レフリーに促されて中央でマイク選手と向かい合う。えぇ…。滅茶苦茶顔を近付けてくるじゃん。

 やめてよ。このままじゃ俺の大切なファーストキスがマイク選手になっちゃう。それに。


 「臭い」


 思わず声に出してしまった。いやね、なんかね、口が臭いのよ。ちゃんと歯磨きしてらっしゃる?

 なんか壊滅的な臭いだよ?


 レフリーがあんまりな俺の一言に思わず吹き出しそうになってる。

 すみません。口に出していい事じゃありませんでした。マイク選手は俺の一言に般若を通り越して阿修羅みたいになってるし。


 最後にグローブを合わせようとしても無視された。どうやら俺ちゃんは相当嫌われたらしい。

 まぁ、そうだよね。これで好印象を持たれる方が怖いや。


 「水。水。ちょっと鼻洗って」


 俺はコーナーに戻って、慌てて父さんにお願いする。臭いが染み付いてる気がするんだよね。

 これ、向こうの作戦なのかしらん? だったら大成功だぞ。


 「ぶっ殺してやる」


 危うくファーストキスを奪われそうになったばかりか、母さん譲りの綺麗な俺の鼻を汚すとは。

 万死に値する。綺麗な顔で帰れると思うなよ。


 「拳聖。頭に血が昇りすぎてないか?」


 「大丈夫。イライラはしてるけど冷静だよ」


 「それは冷静って言えるのか…?」


 ほら。あれだよ。

 心はホットに頭はクールにってやつだよ。知らんけど。まぁ、心配せずにドンと構えていてほしい。

 ボコボコのボコにしてやる。二度とその臭い口を俺に近付けないようにしなくてはならない。


 カーン!!


 第1Rのゴングが鳴った。

 それと同時に俺は夏の合宿でパワーアップした脚力を駆使して、猛スピードでマイク選手に近付いた。

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