第36話 記者会見
「皇選手。リミット一杯。計量OKです」
あっぶね。
いや、マジで。
気合い入れて身体を作ったからギリギリになっちまったぜ。これは次回の減量で苦労するかもなぁ。
まぁ、今回も水抜きぐらいしかしてないし、普通にご飯を食べてたからまだ大丈夫かなとは思うけど。今回は前日計量だし、しっかりリカバリー出来るしね。
「マイク・大村選手。計量OKです」
相手の日本チャンピオン、マイク選手もしっかり計量をパス。
かなり仕上がってるように見える。
この後記者会見があるんだよねぇ。
早くうどんを食べたいんだけど。
これもプロの仕事として頑張るんだけどさ。
タイトル戦って事で一気に注目度が上がってるんだよね。何せ俺は二世選手でしかも高校生。
しかもプロ三戦目でタイトル挑戦ときた。そりゃマスコミは放っておきませんよ。
計量室の雰囲気はあまりよろしくない。
俺は特に気にしてないんだけど、相手方がかなりピリピリしてるんだよねぇ。
まぁ、OPBFに再挑戦しようとしてたところで、俺が割り込んで試合を入れてもらってるからねぇ。
どういう話し合いで試合をぶっ込んだのか知らないけど、向こうの雰囲気から見るにあんまり良い感じではないんだろう。
こんな若造はさっさとぶっ潰してやるって気概がありありと見える。
とりあえず笑っとくか。
日本人お得意の愛想笑いである。
過激な選手は中指を立てたりするんだろうが、俺ちゃんは品行方正の人間ですから。
そういうのは本当にムカついた時だけにします。
が、しかし。
笑ってるのも煽ってると取られたのか、青筋がピクピクと。これは記者会見も荒れるんじゃないですかねぇ。あーやだやだ。
場所を移して記者会見場。
俺は高校生なので制服で。こういう場所ではぴっちりとスーツでキメるのがカッコいいんだろうが、それはもう少しお預けである。
「それでは両選手に日本タイトルマッチの抱負を聞いていきたいと思います」
人の良さそうな司会の人がつつがなく会見を進行してくれる。
凄いよね。雰囲気は控えめに言って最悪なのに。
そんな事を思わせないプロの司会進行である。
「それではまずチャンピオンのマイク・大村選手からお願い致します」
マイク・大村選手はこちらをチラリと睨みながら、目の前にあるマイクを取る。
マイク・大村、マイクを取る。ぶふっ。
頭の中で想像して笑っちゃった。それが良くなかったのか、こちらを睨んでいたマイク選手がマイクを…ぶふっ。だめだめ。ツボに入っちゃった。
くそ面白くないのに、何故かツボに入っちゃった。
と、とにかく、こちらを睨んでたマイク選手が、マイクを握り潰さんばかりに、強く握って一言。
「あのにやけた面をぶっ飛ばす。以上だ」
見た目からは想像出来ないほど流暢な日本語を使って、それはもう清々しい程の宣戦布告。
まぁ、日本生まれ日本育ちなんだから当たり前か。
「あ、ありがとうございます。それでは挑戦者の皇選手からも抱負を伺いましょう」
ふむふむ。
なんか誤解をさせてしまったけど、チャンピオンがあれだけ啖呵を切ったんだし?
俺もそれなりにパフォーマンスしないと、面白くない人間と思われるかも?
「日本タイトルはあくまで通過点です。ここでしっかり圧勝してOPBF、世界タイトルへの足掛かりにしたいですね」
そう言って、マイク選手を見てにこりと笑う。俺の中ではまだ控えめにしておいた。
この試合は所詮世界への前座〜とか1RKO宣言とかも言ってやろうかと思ったんだけどね。
流石にまだプロ二戦目のニュービーが言うには、実績が足りない。もう少し結果を残してから口を大きくしたいと思います。
でもでもこの発言と笑顔だけでも、相手を刺激するには充分だったらしい。
もうマイク・大村選手の顔が般若みたいになっておられる。怖いねぇ。
波乱に満ちた記者会見はこれにて終了。
これだけでかい事言ったんだ。明日の試合がしょーもない出来で終わってしまったら、叩かれる事間違いなし。気合い入れてリカバリーしないとな。
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