第35話 先輩の試合
「しょっぱい! しょっぱいですよ!」
「うるせぇ! 勝てば良いんだよ!」
「いや、それもギリギリじゃないっすか!」
今日はいつものスパーリング三銃士のうちの一人の試合があった。
いつもスパーリングに付き合ってもらってるし、同じジムに所属してるって事で、俺も応援に行ったんだけど。
結果はギリギリの判定勝ちだった。
「最後の最後でダウンを奪ったから良かったものの。ちょっと打たれ過ぎですよ」
「俺はお前みたいにぴょんぴょん躱せないんだよ」
場所は打ち上げ会場。
まぁ、居酒屋である。
今日試合した、桃山さんはここでバイトをしている。プロボクサーでファイトマネーで食べていける人間は一握りだけだからね。
「まったくもう!」
「なんで勝ったのに説教されなきゃいけねぇんだ」
俺はぷんすこしながら、炭酸水を飲む。
俺も試合が近いからね。ジュースを飲みたいけど、ここは我慢。お酒なんて以ての外。
なにせ俺はまだ17歳。ピチピチの高校生であるからして。
「説教っていうか、序盤に油断し過ぎというか…」
いや、俺だって素直に祝福したいさ。
でも、最初から最後までヒヤヒヤさせられるこっちの気持ちにもなってほしい。
ずっと手に汗握る試合ってのも面白いけどさ。
ちょっと心臓に悪いですよ。あれだけ打たれてダウンしないのは凄かったけどさ。
ちょっとパンチもらい過ぎよ?
「まぁまぁ。拳聖のお陰で俺達は打たれ強くなってるからな。泥試合は望むところよ」
「ダテに毎日転がされてないぜ!」
「そこは威張るところじゃないんですよ」
スパーリング三銃士の残りの二人、赤城さんと黒木さんがドヤ顔で言って来るが、後輩に毎回転がされてるのを威張らないでほしい。
まぁ、三人共俺より階級が下だから仕方ない所はあるんだけど。
「赤城さんと黒木さんももうすぐですよね?」
「お前の前座だよ」
「俺も同じく」
「え? 同じ日なんですか?」
二人もそろそろ試合って聞いてたけど、まさか俺とおんなじ日だとは。
しかも俺の前座。なんか申し訳ないね。
「憐れんだ目で見るな!」
「そうだそうだ! 前座で派手にKOしてお前の客を全部食ってやる!!」
すげぇフラグ建てるじゃん。
これ、塩試合して観客をしらけさせるとかあるんじゃないの?
いやだよ? しらけた雰囲気の会場で試合するの。
「こ、こいつ! 顔に全部出てやがる!」
「俺達をなんだと思ってるんだ!」
「動くサンドバッグ」
「ぶふっ!」
俺のあまりの言いように、居酒屋の大将が吹き出した。流石に冗談よ? いつも俺のスパーリングに付き合ってくれてありがたいと思ってる。
あんだけボコボコにされても心が折れないんだから。根性だけは世界レベルと思ってます。
「こいつはちょっと舐められすぎてるな」
「ああ。次の試合をしっかり見とけ。俺達先輩の凄さってのを思い知らせてやる」
「楽しみにしてますね」
何故こうも綺麗にフラグを建てるのか。
もしかしてボクシングのライセンス以外にもA級フラグ建築士のライセンスも所持してるんじゃない?
「いつか天下ジムに俺達四人のチャンピオンベルトを並べたいですねぇ」
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