第34話 日本チャンピオン


 「これ、すっげぇよなぁ。直撃したら死ぬんじゃないの?」


 「世界にはこんなのがゴロゴロ居るんだぞ。それにお前の最終目標のヘビー級なんて、これの最終地点だ。世界へ向けての良い予行演習になるだろう。こんなとこで躓いてちゃ、9階級制覇なんて夢のまた夢だぞ?」


 「分かってるよ」


 俺と父さんは、家で日本チャンピオンの試合映像を見ている。

 マイク・大村って名前なんだけど、その名前から分かる通りハーフの人で本名だ。

 リングネームではない。


 そのマイク・大村選手の必殺の右フック。

 プロ20戦で16KOはダテじゃない。

 直撃したらマジで死にそうだ。


 「この人でも日本チャンピオンレベルなんだよな」


 「ああ。OPBFのタイトル戦で判定負けしてる」


 別に日本チャンピオンのレベルが低い訳じゃないんだけど。ライト級が群雄割拠すぎて、レベルが物凄く高いんだ。

 このマイク・大村選手…長いからマイク選手って呼ぶけど、この人もその一回しか負けていない。


 OPBFに再戦する気満々だったけど、そこに俺が割り込んだ形だ。

 今イケイケでぶいぶい言わせてる、二世選手を叩いてOPBF戦に弾みをつけようとしてるんだろうが、そうはいかない。


 俺は次の試合、何がなんでも負けられない。

 絶対に勝ちたい。ルトゥールに最高の楽曲を提供してもらうのだ。


 「でも、この人あれだよな。なんて言うか雑だよね」


 「ああ。圧倒的フィジカルのゴリ押しと言ってもいい。それで勝ててるんだから、黒人の血は凄いって事だろう」


 ようはあれだ。当たらなければ良かろう戦法で、挑めば勝てるということだ。

 向こうはパンチ一発当てれば勝てると思ってるんだろうが、俺ちゃんは目に自信があります。

 油断はしないけど、あんな雑に振り回してくる相手に負ける訳にはいかない。


 「実際OPBFのタイトル戦では、徹底的にアウトボクシングで近付けない戦法だったな」


 「まぁ、これを踏襲すれば楽に勝てるんだろうけど」


 「本当にやるんだな?」


 「あたぼうよ、べらぼうめ」


 殴り合ってその上で勝ってやる。

 圧倒的勝利で世界に名乗りを上げてやらぁ。

 出来れば1RKO。最初からフルスロットルでボコボコのボコにしてやる。


 「お前のわがままに付き合うのは3Rまでだ。それまでに仕留められなかったら、ペースダウンしてもらうぞ」


 「うん」


 目標は1RKOだけど、それに固執する訳にはいかない。セカンドプランは必要だ。


 「試合まで後一ヶ月。徹底的に心肺機能を強化してやる。全R暴れ回ってもバテない体を作ってやるぜ!」


 「そんな羨ましいボディを作れたらお前は一気に世界チャンピオンだ」


 ふはははは!

 『超回復』さんに働いてもらうとしよう。

 トレーニングは勿論の事、試合中の体力回復にも役立つからな! ほんと最高の特典をもらったぜ。


 「後、減量な」


 「試合前の水抜きだけでいけると思うけど」


 「これから更に鍛えるならそんな事言ってられないだろ。拳聖は成長が早いんだからよ」


 ふむん。確かに。

 練習してたら気を付けてても筋肉は勝手についていくからな。筋肉を落とすなんて勿体無い事はしたくないし、父さんの言う通りその辺もしっかりケアしていこう。

 早く気にせず筋肉をつけれるようになりたいぜ。

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