第31話 地獄


 「ほらほらほら! もうバテたか!?」


 「ぜっ! ぜっ! ぜっ!」


 海で遊んで日が軽く沈み始めた17時。

 上半身裸の水着姿で、俺は父さんから投げられるボールをひたすら追いかけていた。


 足が取られる砂浜での体重移動のトレーニング。

 父さんは俺が動けるギリギリを狙って次々とテニスボールを投げる。俺はそれを落とさないようにキャッチして、すぐさま投げられる次のボールへ。

 連続50球キャッチ出来るまで終わらない地獄のトレーニングである。

 というより、父さんの投げるボールの匙加減に左右されるので、いつ終わるかは父さん次第である。


 「おっと。手が滑った」


 「ぬあーっ! このクソ親父! 性格が悪すぎる!!」


 連続キャッチが40球を超えた頃、父さんが、いや、クソ親父が絶対に届かない場所に放り投げる。

 手が滑ったとか白々しく言ってるが、これでもう三回目である。決まって40球を超えた辺りで手が滑るのだ。


 「はっはっは! ほら! 最初からやり直しだぞ!」


 「クソがー!!」


 荒い息を吐き捨て、また最初からボールをキャッチしていく。悔しいが、これはとてもボクシングの練習に向いているのだ。

 スムーズな体重移動のためには、急な方向転換が不可欠。それをしかも足を取られる砂浜でやってるのだ。効果が出ない訳あるまいて。


 「41! 42!」


 またまた40球を超え始めた。

 そろそろまたクソ親父の手が滑るぞと身構える。

 ボールをキャッチしながらチラッと顔を見ると、それはもう悪い顔をしていた。

 とても聖歌には見せられない顔だ。なんとか写真を撮って見せてやりたいもんだ。そして嫌われてしまえば良い。明日からカメラを用意しておこう。


 「おーっと!」


 そして49球目。案の定白々しい演技でボールを落とす。それも2球同時に。

 別々の方向に投げられたボール。この2球をキャッチ出来ればこの練習は終わりである。


 俺はとりあえず近めのボールを足で軽く蹴り上げて時間を稼ぐ。

 そしてもう1球の方へ走り、これをキャッチ。

 急いで方向転換をして、蹴り上げたボールキャッチ。ふはははは! クリア! クリアである!!


 「えー…。それ取れるのかよ」


 流石の父さんも今の曲芸にはびっくりしていた。

 俺も体がスムーズに動いてびっくりしたけど。

 『コーディネーション』のお陰かね。


 「クリアはクリアだからね! この練習は終わり!!」


 「分かった分かった。明日はその曲芸も頭に入れてやらないとダメだな」


 しまったな。今のは最終日に見せるべきだったか。自然に体が動いたから仕方ないんだけど。

 明日からかなりキツくなるじゃないか。


 俺は明日の事を想像してドヨンとしながらも、練習はまだ続く。

 18時。ここからは父さんとひたすらスパーリングである。さっきの恨みを晴らすべく気合いが入るのも仕方ないだろう。


 しかしこのスパーリングはそう単純なものじゃない。いくら元世界チャンピオンとはいえ、既に現役を引退して時間が経っている。

 ハンデという訳じゃないが、リングの外には母さんと聖歌がぷにぷにのボールを持っている。

 これがスパーリング中に適当に俺目掛けて投げられるのだ。流石に真後ろから投げられる事はないけど、これが絶妙な死角から投げられる事もあって、避けるのにかなり苦労する。


 この時だけ聖歌は天使から小悪魔にジョブチェンジする。父さんのいけないところを引き継いでしまったのか、まぁ嫌らしいタイミングでボールを投げてくる。


 注意しないといけないのは投げられるボールだけじゃなく、投げ終わったボールもである。

 偶に足元に残ってる事があって、万が一踏んでしまうと体勢を軽く崩してしまう。父さんはそこを容赦なく狙ってくるし、足元にも注視しないといけない訳だ。


 「シッ!!」


 「拳聖のジャブはほんとに見にくいな!」


 そんな事を言いながら当たり前の様にグローブで弾く父さん。

 歳を重ねて動体視力も落ちてるだろうに、当たり前のようにディフェンスしないでほしい。

 自信を無くしそうになっちゃうよ。


 「てーい!」


 聖歌の可愛らしい声が聞こえたので、ボールが飛んでくるぞと身構える。


 「?」


 しかしいつまで経ってもボールは飛んでこない。


 「隙あり!」


 「あべしっ!」


 俺が一瞬気を抜いた所に父さんのストレートがクリーンヒット。小悪魔聖歌にまんまと騙された。


 「はぁ。はぁ。はぁ」


 こうしてこのスパーリングはどちらかの体力が尽きるまで行われる。

 大抵バテるのは俺が早いんだけど。だって、このスパーリング以外にもかなり追い込んでるし。


 そして今日の練習はこれで終了。

 お風呂に入ってご飯を食べてバタンキューである。これを一週間続ける訳だ。

 昼は天使の聖歌と遊べるから天国だが、それ以外は地獄。


 天国と地獄の両方を味わえる場所。

 それが夏の奄美大島である。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 この前友達とサッカーをしてですね。

 まぁ、小学校の頃にやってたぐらいでかなり久々だったんですが、普通に面白くて。

 今年30になる中年だから、すぐに息は上がりましたけど。


 そんな事もあってカクヨムでサッカーモノの作品を最近読み漁ってるんですよね。

 で、まぁ、宣伝なんですが。

 別に知り合いでもなんでもないんですけど、面白かったから紹介しようかなと。


 『サイコフットボール 〜天才サッカー少年は心が読めるサイキッカーだった!〜』


 『フットボールのギフト 〜底辺Jリーガーの俺がフットボールの神様から貰ったご褒美とは〜』


 この二つが特に面白くて。

 これを読んでるせいで、自作品のストックが中々作れないという…。

 しかもとりあえずフォローだけしておいて、まだ読んでないのがあるから…

 『テクニカル・エリア』とかも面白そうなんですよね。


 ボクシングとサッカーとスポーツの種類は違いますけど、同じスポーツ小説って事で是非是非読んでみてくださーい。


 …普通に宣伝してるけど、怒られないよね?笑

 まぁ、前回なんともなかったから大丈夫だよねと楽観的な姿勢でいます。

 怒られたらすぐ消すぜ!


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