第30話 海


 「海だー!!」


 「拳聖はここに来たら毎年叫んでるな」


 「様式美かと思って」


 季節は夏。

 夏と言えば海。

 という事でやって来ました。奄美大島。

 なんと父さんはここに別荘を持っていて、毎年の様に家族で来ている。

 プライベートビーチみたいなのもあって、人の目を気にせず遊びまくれるんだ。


 まぁ、ここに来たのは合宿の意味もあるんだけどね。父さんも現役時代はここで合宿していた。

 朝は浜辺で地獄のトレーニング。少し仮眠して、昼は海で遊ぶ。

 夕方から夜にかけてまたトレーニング。

 これを一週間やります。


 夜木屋選手と試合してから一ヶ月。

 元からほぼダメージは無かったから、既に練習は再開していて、日本チャンピオンとの試合も決まった。九月にやる事になっていて、ここに勝ってそのままOPBF東洋太平洋のタイトルに挑む予定だ。


 この前の試合に勝った事で、日本ライト級一位、OPBF東洋太平洋ライト級4位まで上がっている。

 プロ二戦しかしてないのに、これは中々のご評価を貰ってるんじゃなかろうか。


 「次の試合も地上波で放送されるかもしれないんだよねぇ」


 「破格の待遇だな」


 まぁ、それも伯父さんのお陰なんだけど。

 前回の試合での勝利を見て、関係各所に掛け合ってくれたらしい。前回の試合は偶々枠が空いてるから、お試しで放送してみるかーみたいな感じだったんだけどね。これだけ見れば甥っ子思いの良い人だと思えるんだけどね。

 多分お金になると思ってくれたんだろうなぁと考えてますね、はい。


 「まっ、全国の皆さんに不甲斐ない試合を見せない為にも、今日からミッチリトレーニング頑張りますか」



 

 翌日から本格的な合宿が始まった。

 朝4時に起床して、砂浜で短距離ダッシュをとランニングを繰り返す。

 これがまぁきつい。いや、ほんとに。

 毎年来てるから、今でこそ慣れたが砂浜を走るにはコツがいる。

 主に足の親指が重要で、始めた頃は何回もマメを潰した。今はカッチカチになってるが、あの頃は痛くて半べそをかいてたなぁ。


 「ぜはーっ。ぜはーっ。ぜはーっ」


 「普段は涼しい顔をして練習をこなす拳聖も海じゃボロボロだな」


 父さんは現役を引退したものの、軽いトレーニングはしている。

 ほんとに軽くだから、バテる様な事はない。

 今も俺のランニングを座って笑いながら見てるし。


 既に足がプルプルしてるが、まだ練習は終わらない。時刻は午前6時。

 別荘に父さんが作った設備の整ったジムで、ひたすらシャドーボクシング。

 これを休憩を挟みつつ約2時間行う。


 そして8時頃になると母さんと聖歌が起きてきて、みんなで朝食。

 既に追い込み過ぎて吐き気を催す程だが、食べないという選択肢はない。

 なんとかお腹に詰め込んで、ようやく自由時間。


 俺はベッドで横になりつつ、動画サイトでボクシングやら、お気に入りの配信者の動画を見ながら仮眠。


 12時頃に起きて昼食を食べた後は海で遊ぶ。

 昼の暑い時間帯にトレーニングすると、すぐにバテるしね。練習は基本的に涼しい時間に行う。


 「お兄ちゃん! ビーチボールで遊ぶよ!」


 「喜んで!!」


 至福の時間である。

 天使の聖歌ちゃんと遊ばせて頂ける。

 なんたるご褒美か。練習の疲れが溶けて消えていくようだ。光属性の回復魔法を使ってくれてるのかもしれん。


 しかし、幸せの時間とは長く続かないもの。

 夕方の17時頃から2度目の地獄が始まる。

 

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