第26話 VSライト級夜木屋1


 試合前に計量をしっかりパスして、今日も今日とて母さんお手製の釜玉うどんを食べる。

 うんみゃい! これを食べるとマジで負ける気がしないぜ。


 計量で夜木屋選手に会った印象は、なんか陰気な人だなぁって感じ。

 一応よろしくお願いしますって挨拶しに行ったんだけど、ずっとぶつぶつと何か独り言を言っていたんだよね。


 「拳聖ちゃん。今日も頑張ってね」


 「うん。なんたってメインだからね。学校の友達も結構来てくれるし」


 そう。なんと今日は俺はメインの試合なのだ。

 相手が日本ランク1位だからだけど。

 それに、今日は学校の友達が多数応援に駆け付けてくれている。

 不甲斐ない試合は見せられない。前回同様KO勝ちしたいものですな。




 時間は進み、いよいよ試合。


 「絶好調だな」


 「うん。後は相手に惑わされないようにするだけだね」


 控え室で父さんと軽くミット打ちをして、調子を確かめる。

 今回も減量に苦労しなかった事もあって、体キレが物凄く良い。


 「皇選手。入場準備お願いします」


 「うしっ! 派手にいくぜ!」


 今日のトランクスには神宮寺グループの広告が載っている。

 スポンサーになってくれた伯父さんの期待に応える為にも絶対に勝たないとな。



 「拳聖ー!」


 「見に来たぞー! 頑張れー!」


 試合会場に入るとクラスメイトが見える。

 それに他クラスの人達も見に来てくれてるみたいだ。軽く手を挙げて声援に応える。チケット購入ありがとうございます。期待に沿う活躍をしてみせますよ。



 リングに上がると一際大歓声。

 前の試合でファンを掴んだかもしれんな。

 俺はリングの四方にお辞儀をして夜木屋選手と向き合う。


 「やべぇな。油断しないように意識してるのに、どうしても侮って見てしまう」


 あんまり仕上がってるとは思えない体。

 良いのが一発入れば簡単に倒れそうに見えるんだよな。だが、この人は日本ランク1位なのだ。


 リング中央で審判の注意事項を聞いてても、夜木屋選手は視線を彷徨わせてぶつぶつと。

 これは毎試合そうなんだよね。映像で見て不気味だなと思ってたけど、実際見ると鳥肌が立ちそう。

 いけないおクスリとかやってないですよね?


 「序盤は様子見でも良いぞ。ジャブの差し合いで負けるなよ」


 「いえっさー」


 そしてゴングが鳴って第1R。

 ゆっくりとリング中央に向かって距離を測る。


 「うおっ!」


 夜木屋選手のジャブ3連打。

 映像で見るより全然鋭い。てか、試合前は視線彷徨わせたり、ぶつぶつ言って不気味だったのに、ゴングが鳴ってからは一転して、かなり真剣な目をしている。ONとOFFの差が激しい。


 だが俺も負けてられない。

 ジャブをグローブで弾きつつ、こちらもフリッカーを打ち返して行く。


 守備が上手いなぁ。

 俺がジャブを放つと俺のリーチがギリギリ届かないところまで後退。

 距離感が素晴らしいな。初見でここまで合わせてくるとは。


 後はクリンチがどんな感じか確かめたい。

 って事で、ジャブで牽制しつつ距離を詰める。

 そしてここってタイミングで一気に相手の懐に飛び込みボディを打とうとした時にはもう抱きつかれていた。


 クリンチ名人かよ。

 審判が来てクリンチを止めようとした時。

 夜木屋選手は自分で俺を解放して、離れ際にポイント重視の手打ちパンチを打ってこようとした。

 

 映像で見たから知ってるぞ。

 夜木屋選手はこうやって効率的にポイントを稼ぐって。だが、知ってるという事は対策もしてあるという事で。

 俺は手打ちのワンツーに合わせて右フック一閃。


 夜木屋選手はマットに沈んだ。

 

 

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