第27話 VSライト級夜木屋2
「ワン! ツー! スリー!」
俺はニュートラルコーナーで待機しながら、内心で首を傾げる。
確かに上手い事カウンターを合わせられたが、あんまり手応えがなかったのだ。
上手く衝撃を流されたような感覚。
「フォー! ファイブ! シックス!」
その証拠に夜木屋選手はまだ立ち上がってないものの、目線はしっかりしてるし、ギリギリまで休むという冷静な判断が出来ている。
まぁ、ダウンは取ったんだし、このRのポイントは俺の物でしょと気持ちを切り替える。
「拳聖ー! 焦るなよー!」
セカンドの父さんも違和感があるのか、畳み掛けろじゃなくて焦るなの指示。
ここはもう一回ジャブの組み立てからやり直しますかね。
そんな事を思ってるとカウント8で夜木屋選手がスッと立ち上がってファイティングポーズを取る。
足にきてる様子もないし、ほんとになんで倒れたんだってレベルだ。
「ファイ!」
レフリーの合図で試合が再開する。
そして俺はリング中央を陣取り、ジャブの連打を放つ。
いや、ほんとに距離感が凄いな。
空間認識能力が高いんだろうか? ジャブがギリギリ届かない場所で捌かれている。
ただジャブでどんどん誘導して、コーナーに追い詰める。そしていよいよという所で、第1R終了のゴングが鳴った。
「うーん」
「悪くないぞ? どうした?」
「いや、この調子なら次のRで仕留められそうだなぁと思って。1位だからなんか隠し球でもあるのかなって考えてたんだけど」
油断してる訳じゃないけどさ。
コーナーにさえ追い込めば、インファイトに持ち込まなくても、ジャブで串刺しにし続ければ勝てる。打たれ続ければガードも下がってくるだろうし、そうなったら満を辞してストレートをお見舞いだ。今の所負けるビジョンが見えない。
「向こうはダウンしてるからな。多少積極的に攻めてくる事もありえる。入り方に注意しろよ」
「いえっさー」
セカンドアウトの声が聞こえてきたので、椅子から立ち上がり、口の中を水でぐじゅぐじゅぺってする。
KOで勝ちたい所だけど、果たしてどうなるか。
☆★☆★☆★
「油断してくれますかねぇ」
夜木屋サイドのセカンドにて。
第1Rを終えた夜木屋とトレーナーがダウンを取られたのに、悠長に話をしていた。
「第1Rはほぼ理想通りだな。最後にコーナーまで追い詰められたのも良かった。多分向こうは、次のRも同じ様にコーナーに詰めてジャブで釘付けにする作戦で来るだろう。あのジャブは捌けるか?」
「もう少し慣れないとダメですね。やっぱり軌道が独特すぎます。第1Rはフットワークで誤魔化しましたけど、コーナーだと何発か貰うでしょうね」
「チャンスは一回だぞ。正確に捉えてこい」
「分かってますよ。この二ヶ月はほぼその練習しかしてないんですから。きっちり仕留めてきます」
マウスピースを装着しながら不気味に笑う夜木屋。その顔はとてもほぼ判定勝ちで勝ってきた選手とは思えないほど獰猛で、確実に倒し切る算段があるというような顔であった。
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