第20話 VSライト級小園1


 ゴングが鳴り、お互いリング中央付近にて間合いを計っている。

 俺は両腕をダラリと下げたほぼノーガードで、腕をゆらゆらしながら軽くフェイントをかける。

 そしてジャブを放った。


 「シッ!」


 俺の自慢の高速ジャブ。軽く5.6発は打っただろうか。


 しかし相手の小園選手はガードが固い。

 ランカーにも通用したんだが。

 フリッカーという見慣れない軌道なのに、しっかりとガード出来ている。

 俺のプロテストの映像を見たんだろうか。


 「拳聖ー! 数打ってけー!」


 セカンドから父さんの声が聞こえる。

 うむうむ。そうだよな。少しガードされたぐらいでへこたれる訳にはいかない。


 俺は父さんのアドバイス通り、ガードなんて関係ねぇとばかりにどんどんジャブを打っていく。

 なんとかガードをこじ開けたいところだが、本当に固い。それでいてジリジリと近付いてきている。

 そして僅かなジャブの切れ間に、小園選手は一気に射程圏内に侵入。

 ジャブストレートのワン・ツーを放ってきた。


 しかし俺の反射神経と動体視力は並ではない。

 ジャブをグローブで受け止め、ストレートを躱してカウンター。

 俺の右フックはこめかみを捉えたものの、軽くタタラを踏んだだけで耐えられてしまった。


 「拳聖! 手打ちになってるぞ!」


 むぅ。その通り。

 カウンターを合わせようとして焦りすぎた。

 あれだけ基礎を染み込ませてきたつもりなのに、いざ本番になると練習通りにはいかない。

 俺もまだまだって事ですな。プロデビュー戦なんだから当たり前なんだが。


 そこから1Rは同じ様な展開が続いた。

 俺がガード関係なくジャブを打ちまくる。

 小園選手はガードを固めて突っ込む。

 そしてあっという間に1R目が終了した。


 「ぷはー。ガード固いなぁ。俺のジャブ効いてないのかな?」


 「効いてるに決まってるだろ。向こうの顔を良くみておけ。早かったら2R、遅くても3Rで表情にでるはずだ。ガード越しでもダメージは受ける。気にせず打ち続けろ。ポイントは間違いなく取れてる」


 「いえっさー」


 水をぐじゅぐじゅぺってしてマウスピースをつける。2R目はもう少し誘ってみようか。

 そんな事を思ってるとゴングが鳴った。


 「むっ」


 ゴングと同時に小園選手が凄いスピードで突っ込んできた。

 ちょっぴりびっくりしたけど問題ない。

 嵐の様な猛打を的確に躱していく。

 カウンターを差し込みたいなと思ってたんだけど、中々どうして隙がない。


 「グッッ…」


 ボディに良いのを貰ってしまった。

 やっぱり映像で見た通り、小園選手のボディは強烈だ。鍛えてなかったら危なかったかも。


 「拳聖ー!! 手を出せ!!」


 分かってるんだけどね。

 なんか小園選手は鬼気迫る表情で、このRから仕掛けてきてるんだよな。

 迂闊に手を出すとやばそう。

 という事で、フットワークを使って距離を取って、ジャブで牽制。


 それでも小園選手は止まらない。

 何があったんだと思ったら、小園選手の左眼がびっくりするぐらい腫れ上がっていた。

 ガードで隠れてて全然見えなかったぜ。

 俺のジャブはガード越しでもしっかり効果が出てたって事だろう。


 そういう事なら話は早い。

 恐らく小園選手は長期戦は不利と見て、早めに勝負を仕掛けてきた。

 本当ならこのRはいなして、相手の体力を消耗させれば良いんだろうけど。


 受けて立ーつ!!

 ここでインファイトも出来るんだって所を見せつけてやる。

 俺はグッと歯を食いしばって足を止める。


 若干ガードを上げて小園選手を待ち受けると、そこからは殴り合いだ。

 しかし、一方的に殴ってるのは俺である。

 躱してボディ。躱してボディ。相手のパンチをガードで弾き、ギリギリで躱してとにかくボディ。


 苦悶の表情を浮かべている小園選手だが、それでもラッシュは止まらない。

 中々に我慢強い人だ。俺のボディはジムの人にはかなり嫌われてるぐらい効くはずなのに。


 カンカンカーン!


 そんな事を思ってると、第2R終了のゴングが鳴った。チラッと小園選手を見ると、かなり息が上がっている。

 これは次のRで仕留めれるかな?

 

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