閑話 中学時代


 「これが試合なのかね」


 小学生時代では結局一回しか試合が出来なかった。俺が大きすぎてその階級に対戦相手がいなかったのが理由だが。


 それならばと期待した中学時代初めての全国大会。中学一年で54kgの部に出場。

 わくわくしながら挑んだ初戦だった。


 「ひぃ、ひぃぃぃ!」


 自慢のフリッカージャブで釘付けにしてるだけで試合が終わった。

 対戦相手が棄権したからだ。


 「まだ何もしてないんだけど」


 「言うな。俺もお前の実力を良い意味で見誤っていた」


 セカンドについてくれていた父さんに不満気に呟くと、父さんも眉間に手を抑えてため息を吐いている。楽しみにしてたのになぁ。

 そんな事を思いながら、試合にはなんのドラマもなく着々と勝利。

 小学生の時より試合はたくさん出来たけど、なんの面白味もなかった。


 「うーん。ジムで既にプロともスパーリングしてるからなぁ。これじゃあ試合経験を積ます事も出来ないぞ」


 いくら俺が特典チートだとしても、プロの人にはまだまだ勝てない。

 小学一年から練習に取り組んできた俺だけど、やっぱり場数が違うのか、いいようにあしらわれてる感じだ。その為にもこの中学になってからの試合は期待してたんだけどな。


 「来年は階級上げるか」


 「あんまり無理して体重増やしたくないなぁ。体重が足りてなくても上の階級に出たらダメって事はないんでしょ? 体重が足りてなくても1番上の階級で出るよ」


 「いや、一番上は70kgオーバーだぞ。流石に20kg近く違う階級はダメだ。来年はとりあえず60kgの試合に出てみろ」


 「分かった」


 そんな話をした一年後。

 軽い体重管理をしているお陰で、そこまで体重が増える事もなく、56kg代で60kgの階級に出る事になった。



 「シッ!」


 「グッ…」


 楽しい。とても楽しい。

 4kgの差とはここまで大きいのか。

 俺のパンチを受けても全然倒れない。

 いや、カウンターをかませば倒れるんだけどね。

 自分的に良いのが入ったと思っても、耐えられてしまう。そこでまとめて連打すればまた話は違うんだろうけど、貴重な練習相手である。

 今まで実戦で試せなかった事を存分に試させてもらう。スパーリングとはまた感覚が違うしね。


 「油断だけはするなよ」


 「する訳ないよ。俺は生涯負けなしでボクシング人生を終えたいんだ」


 俺の目標は世界最高のボクサーである。

 最強はね…。どうせ時代によって云々言われるから…。でも9階級制覇をしたら世界最高として認められるんじゃなかろうか。

 前人未到の記録を打ち立てたい。

 誰も文句言えない結果が欲しい。

 特典とかいうチートまで貰ったんだ。これで結果を出さなきゃ俺は無能である。


 「って事で来年はもう一つ階級をあげようかな」


 「次は64kgになるぞ?」


 望む所。来年までに体重も少しは増えてるだろうしさ。今は少しでも強い相手との実戦経験が欲しい。体が大きけりゃ強いって訳じゃないけどさ。


 そんなこんなで中学生活を過ごした。

 そして中学で試合をして思ったのは、さっさとプロになろうって事である。

 アマチュアを馬鹿にしてる訳じゃないし、オリンピックにだって興味はあった。

 でも、日が経つ毎に身長は伸びていくし、九階級制覇するからには少しでも早くプロになって、下の階級から制覇していく必要があると思ったからだ。


 高校生でプロデビューするのは中々しんどいだろう。学校に通いながらの減量、試合へのモチベーション維持。それでも俺はやる。

 世界最高のプロボクサーになって、母さんみたいな美人なお嫁さんをゲットする。

 夢に向かって頑張るぜ。

 

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