第17話 ボディ強化


 「おなしゃす!」


 「おうよ!」


 リングの上には俺と数人の選手。

 何をしてるかというと、ボディに耐える練習だ。

 俺はボディをガラ空きにして踏ん張る。

 そして、数名の選手が変わる変わる俺の腹にどんどんパンチを打ち込んでいく。


 「ぐっ!」


 「どうした拳聖! そんなもんか!」


 「まだまだ!」


 「よーし! どんどん行くぞ!」


 ボコボコと。ただひたすら殴られる。

 胃液が何度も上がってくるのを必死に堪えて、ただただ耐える。


 「普段はスパーでひたすらやられてるからな! 好き放題殴れるなんて役得だぜ!」


 「だな!」


 「わはははは!」


 くそぅ。腹立つ。殴り返したい。

 ボディを鍛える練習なのに、忍耐力まで試されてやがる。いつもは俺がボコボコにしてるからか、ここぞとばかりに思い切り打ってきやがって。

 この後のスパーリングでボコボコにしてやる。


 「よーし! 1分休憩!」


 「ぷはぁ!」


 おぉ。気持ち悪。打たれ過ぎて吐き気が半端ない。側から見たらイジメにしか見えないぜ。

 かなり前時代的な鍛え方をしてるが、これが中々俺には効果的なんだ。

 『超回復』さんがあるからね。ひたすら打たれて腹回りの筋繊維を破壊する。それを『超回復』で治してもらうって寸法よ。

 するとあら不思議。打たれ強い体の出来上がりである。


 「顎だけはどうしようもないからな。そこだけは意地でも死守しないとだけど」


 流石の俺も脳を揺らされるとどうしようもない。

 鍛え方とかあるのかな。三半規管を鍛えたら少しは耐えれるのかも? 後で調べてみよう。


 「おら拳聖! 時間だ! 吐くまでやってやる!」


 「先輩方のパンチじゃ一生無理じゃないですかねぇ」


 「ほ、ほう。聞いたなお前ら! 拳聖はまだまだ余裕らしいぞ! ボコボコにしてやれ!」


 言い方。

 ほんとにイジメみたいになってきてるぞ。

 あ、こら。それはローブローですよ!

 俺のキャン玉を狙うのは反則だ!

 そこは鍛えようがないんだから!!


 因みにキャン玉はどうしようもないが、息子さんの方は鍛えられる。

 『超回復』のお陰なのか自家発電をすると、どんどん大きくバキバキになってるような気がするのだ。そして回数をこなす事に、連射力まで上がってきてる。回復速度がぱねぇのである。

 大きいのに憧れはあったが、大き過ぎるのも困る。俺はライト級なのに、息子さんは既にスーパーミドル級はある。まだなんとか常識の範疇だが、そろそろ制限しないとまずい。

 これじゃあオチオチ発散も出来ない。少し、いや結構困ってます。



 「ふぅ。お疲れっしたー」


 「ぐぅ…」


 「いつもより…」


 「は、吐きそうだ…」


 ボディの練習が終わり、その後にスパーリング。

 いつも以上に先輩方をボコボコにさせてもらった。勿論他意はない。何故かストレスが溜まってたのである。ボディ対策に付き合ってくれた先輩方にやり返すなんて子供染みた真似はしないぞ。


 「あ! 皇君! 練習終わった? ちょっと時間いいかな?」


 「あ、お久しぶりです」


 クールダウンも終わって、ジムで軽く勉強中。

 父さんの車で来てるので、父さんが他の人の指導が終わるまで帰れないのだ。

 で、俺は少しでもサボると留年してしまう程頭の出来が良くないので、空いた時間は勉強である。

 母さんは頭良いのにな。ここらへんは父さんの血だろうか。父さんもギリギリだったらしいし。


 そういう訳でうんうんと唸りながら勉強してると、ボクシング雑誌をの編集者さんが声を掛けてきた。多分プロテストで会って以来である。

 その時に軽く話した程度なんだが…。


 「練習は終わったんで、父さんが終わるまでなら大丈夫っすよ」


 「ありがとう」


 こういうインタビューもボクサーの仕事のうちなんだよなぁ。

 馬鹿だからあんまり喋りたくないんだけど。

 そう思いながらも、記者の人の質問に無難な答えを返しておいた。

 もう少し結果を残したらビッグマウスをぶちかますんだけどね。流石にまだちょっと恥ずかしいので。優等生キャラでいかせてもらいます。

 

 

 

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