第16話 デビュー戦の相手


 「デビュー戦は普通に6回戦でいくことになった」


 プロテストに合格してからしばらく。

 偶に友達と遊びつつも、相変わらずジムでの自分磨きに力を入れていた頃。

 会長室で俺と父さん、会長で俺のデビュー戦について話していた。


 「流石にいきなり8回戦以上は厳しい感じですか」


 「実績が中学しかないからなぁ。これはしゃーないわ。B級からスタート出来ただけでも良かったと思わんと。さっさと2回勝ってA級に上がって日本チャンピオンのベルトを掻っ攫うで」


 会長は久々に世界で戦える選手がジムに居てホクホク顔だ。父さんの引退以降、パッとしない感じの選手しか出て来てないらしいからな。

 別のジムに今、軽量級でブイブイ言わせてる選手はいるらしいけど。

 俺とは階級が全く被ってないので、あんまり興味がありませんな。


 「減量はどうや?」


 「61kgにもっていくなら、少し体重が足りないぐらいには順調ですね。母さんに食事量とか調整してもらいます」


 母さんは父さんの減量生活を支えていた事もあって、こういう栄養管理はお手の物だ。

 芸能界で活躍しつつ、家事全般も完璧って凄いよね。それでいて疲れてそうな雰囲気が全くないんだ。ゴッドマザーである。

 そろそろ引退しようかしらなんて言ってるけどね。次から次へと仕事が舞い込んできてて、相変わらずの人気っぷりだ。


 「相手の選手は?」


 「C級上がりで4戦全勝3KOの奴やな。まだ二十歳になったばかりで結構イケイケらしいで」


 ほう。相手にとって不足はありませんな。

 後で映像を見せてもらおう。

 連勝街道はここまでだ。俺のチートのテクニックで沈んでもらうとしよう。



 「うわぁ。このボディかなりきつそう」


 対戦相手の小園選手。

 いかにも昔やんちゃしてましたみたいな人だ。

 タッパは俺より小さいけど、パワーはそれなりにありそう。

 特に右フックボディ。対戦相手はみんなこれで沈んでいる。マウスピースも吐き出してるし、かなりきついんだろう。


 「見た目に反して基礎がしっかりしてるなぁ」


 俺が驚いたのは不良みたいな見た目のくせに、基礎が滅茶苦茶しっかりしてるところだ。

 オーソドックススタイルで、カードも下がる事がない。前世の仕事でも思ったけど、やっぱり見た目はアテにならんな。


 「普通に強いっすね」


 「かませ犬なんかと戦ってもおもろないやろ」


 流石会長。

 俺の事を良く分かってらっしゃる。

 俺には試合経験が圧倒的に足りていない。

 少しでも強い選手と戦って糧にしないと。


 「普通にテスト相手だった日本ランカーより強そうに見えるな。これは楽しみだ」


 とりあえずボディ対策は必須かな。

 いくら俺の目が良いとはいえ、パンチをもらう事だってあるし、死角から打たれたらどうしようもない。勿論、死角を作らない立ち回りが必要ってのは分かってるんだけどね。

 万が一って事がある。


 「『超回復』さんにお願いしますかね」


 幸い、試合まではまだ四ヶ月ほどある。

 17歳になってすぐにデビューだからね。

 その間に徹底的にボディをイジメ抜くとしよう。

 

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