第10話 天下ジム
俺はドキドキワクワクしながら父さんに連れられてジムに向かっていた。
昨日は楽しみ過ぎて中々寝付けなかったぐらいだ。いつもは布団に入って目を閉じたら即寝出来るのに、眠るまで15分も掛かった。
学校からダッシュで帰ってきて、父さんの腕を引き摺るようにして家を出た。
偶々仕事が休みだった母さんは少し呆れた視線を俺に向けてたけど気にしないね。
それぐらい今日は楽しみにしてたんだから。
「ここだぞ。って覚えてるか」
「偶に母さんと来てたからね」
天下ジム。良い名前である。
天下を取ろうと思ってる俺にぴったりだ。
「おはようございます」
「おはようございます」
ジムに入って挨拶をする。
こういうのは初めの印象が大事だからね。
見知った人もいるけど、それでも知らない人の方が多いんだから。
父さんがジムに入った途端練習してた人がザワつき始める。
ここに所属してたってものあるし、3階級制覇した有名人だ。引退して数年しか経ってないし、知名度はまだまだあるだろう。
「すげぇ。本物だぜ」
「くーっ! ここに通ってて良かった!」
「サインとか貰えるかなぁ」
父さんがチヤホヤされてて、なんだか俺が誇らしい気分である。
息子として恥ずかしくない姿を見せねば。
そう思って胸を張って父さんと一緒に会長室へ向かう。何度も会ってるし、家にも来た事あるけど挨拶はしないとね。
「失礼します」
「失礼します」
ノックをしてから会長室に入る。
中には40代後半の背の小さめなおじさんが待ち構えていた。
「今日からお世話になります! 皇拳聖です! よろしくお願いします!」
「おお! ぼん! 久々やなぁ! 大きなって……? 大きなり過ぎちゃうか?」
コテコテの関西弁のこの人が会長の
因みに俺が住んでるのは普通に東京。恐らく昔に上京して来たんだと思われる。それでも標準語に染まらず、関西弁を貫き通してる。
「157cmあります! 体重は今朝計ったら46kgありました!」
「おお…。えらい大きいなぁ。拳士はちっちゃいのになぁ。嫁さんの血かいな」
「会長。俺の身長は平均です」
「公称はな」
父さんのwikiには170cmって書いてるもんね。
一回パソコンを弄って169cmに変えてやったんだけど、一時間後には170cmに戻ってた。
誰が戻したんだろ。
因みに母さんはモノホンの170cmである。
「ほー。結構身体もがっちり…。なんやこの身体は!」
「流石会長。軽く触っただけで分かりますか」
「逆にこれで46kgに抑えれてんのが凄いわ。無駄な脂肪とか筋肉は殆どないんやなぁ」
天下さん…会長は何の断りもなく、服の上から軽く身体を触ってびっくりしていた。
ふふふふ。自分、身体には自信があるっす!
幼稚園時代から作ってきましたので!
「拳士。お前どんだけ追い込んだんや。こんなん小学生の身体とちゃうで。身体だけやったら今すぐミニマムに放り込んでもチャンピオンや」
「いやぁ」
たははと笑ってる父さん。
まぁ、かなり厳しかったからね。
普通の家庭なら虐待って言われてもおかしくないレベル。でも俺は楽しくやれてたし、最初は心配してた母さんも最終的には呆れた感じで見守ってくれていた。
「後はセンスやな。いくら身体がチャンピオンでも、ボクシングが出来んなら意味あらへんし。そこらへんはどうなんや? お前の事やから軽くは仕込んでるんやろ? 現役時代も教えてくれへんかったし」
あ、そうなんだ。
てっきり親バカの父さんの事だから息子は天才だって自慢して回ってるかと思ってた。
「びっくりさせようと思って黙ってたんです。ここからは実際に見て判断して下さい」
「なんやえらい焦らすやないか。よっしゃ! ほんなら早速いこか!」
おお。期待値が爆上がりしてる件について。
父さんも中々プレッシャーをかけてくるじゃないか。よかろう! これまで父さんと一緒にやってきた練習の成果を見せてやる!
と言っても、まずはウォーミングアップから。
会長からいつも自分がやってるようにやっても良いと言われたので、柔軟からスタートする。
「やわらかっ! ぼん! お前骨何本が足りひんのちゃうか? ぐにゃぐにゃやんけ!」
「拳聖は昔からずっと身体が柔らかいんですよねぇ。あれは天性のモノですよ。スポーツをする人間なら羨ましい身体ですよね」
「いやいや! 関節の可動域! なんやおかしい事なってないか!? 曲がったらあかん方向までいってないか!?」
「あれでも結構余裕がある方みたいなんですよ」
会長の突っ込みが一々面白いなぁ。
流石関西人。不条理には突っ込まずにはいられませんってか。決して関西人を馬鹿にしてる訳じゃありませんよ。
ほんとこの特典はいいな。今まで怪我とも無縁だしね。あー身体が気持ち良い。
「で、ほんとならここから走るんですけど…」
「いや、ここまで来たんやったらちゃんと見せてもらうで! ちょっと表にチャリンコ用意してくるから待っててくれや!」
ふむふむ。どうやら最初の柔軟で会長さんのお眼鏡には適った様子。
周りで練習してる人達もチラホラと俺を見てくるけど、俺が父さんの息子って知ってるのか、今の所悪感情を向けてきてる雰囲気はない。
「よっしゃ! ほな行こか! 無理して良いとこ見せようとせんでええからな! あくまでもいつも通りのボンを見せてくれや!」
「分かりました!」
なら10km走ろうか!
最後の何kmかはダッシュとインターバルに切り替えるけどね。
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