第8話 ジャブ


 父さんのボクシングの指導は宣言通り中々きついもんだった。

 探り探りで練習の強度を調整してくれてるみたいだけど、最初はひーひー言ってました。

 勿論体が悲鳴を上げるギリギリで限界申告はしている。怪我したら元も子もないしね。


 だが俺は特典持ちの特別ボディ。

 『柔軟な体』『コーディネーション』『超回復』

 この三つの特典をフルに活用して、日々の練習をこなしていく。

 『超回復』って筋肉の事だけじゃないっぽいんだよね。いや、調べたら筋肉の事ばっかり書いてあったんだけど、俺の『超回復』は体力とかも凄い勢いで回復してるっぽい。


 息切れからの復帰は早いし、疲れた体も少し時間が経てば元通りだ。

 そこから更に練習をするもんだから、体感的には中高生がこなすぐらいの練習量を日々やってたんじゃないかと思う。


 練習してるのは基礎体力系ばかりではない。

 パンチの打ち方もしっかり習っている。

 と言っても、小学一年生の間はひたすらジャブの練習だった。

 なんでもジャブを制する者は世界を制するという格言があるらしい。


 俺はボクシングの事は知識を蓄えたものの、ど素人に等しいので、父さんに言われた通りひたすらジャブの練習を繰り返した。

 偶に思いっ切りパンチしたい衝動に襲われるが、調べたところによると、下手な事をすると拳を痛めたり骨折してしまう危険があるという事だったので、グッと堪えてジャブりまくった。


 「打つべし打つべし」


 ジャブの練習って意外と面白いんだよね。

 というより、ジャブ一つとってもかなりの技術が必要って事が改めて分かった。

 動画ではボクサー達は簡単に打ってるように見えるんだけど、肘が開いて遠回りしないように注意したり、力まないように心掛けたり。

 腕をただ伸ばすだけじゃなくて体を回転させて打つだったりとか。


 これは父さんがひたすらジャブばっかり練習させるのも分かる。体に染み込むまで。もう無意識レベルでジャブが打てる様になるまで練習せねばなるまい。そう思って頑張ってたんだけど、やっぱりこの体は優秀みたいで。


 基本のジャブが三ヶ月もすれば父さんに合格点を貰えるレベルまで上達した。

 世界チャンピオンの合格点。これは凄い事だと思うんだよね。父さんは親バカだけど、ボクシングの事に関してはかなり厳しい。

 それでも合格点を貰ったんだから誇ってもいいだろう。


 ジャブにも色々種類があるみたいで、フリッカージャブなんてのも教えてもらった。

 腕をダラリと下げた状態から腕を鞭のようにしならせてスナップを効かせ、斜め下から打ち込む感じのジャブだ。


 個人的はこのフリッカージャブがかなりしっくりきている。『柔軟な体』のお陰だろうか。普通のジャブの腕を上げた状態は少し窮屈なんだよね。


 基本ジャブやフリッカージャブをマスターすると、次は実際に動きながら。

 ステップバックをしたり、ロールバックしながらだったりだとか。

 ボクシングを始めたばかりの人はここで躓く事が多いらしい。でも俺には『コーディネーション』がある。未だに毎日練習も続けてるし。

 最初からある程度形になっていたと思う。後は熟練度を上げてどんな場面でも対応できるようになるまでひたすら反復練習だ。


 この体になってから反復練習をするのが楽しい。

 結果が如実に出るからだろう。みんなが嫌うような練習でも楽しくやれてるなという自覚がある。


 「拳聖が才能の塊すぎる」


 父さんが次から次へと課題をクリアしていく俺を見て少し慌ててたのは面白かったな。


 あ、そうそう。

 俺はボクシングを練習を本格的に始めた時に、父さんに筋トレの必要性について聞いてみた。

 でも父さんは言葉濁す。


 「筋トレ。筋トレなぁ。これは選手よるとしか言えないんだよなぁ。やってる人はやってるし、やらない人はやらない。俺はちょっとだけやる派だったな。といっても、懸垂とダンベルシャドーぐらいだったが。後、偶に下半身と体幹を鍛える為のスクワットだったり、ハイクリーンだったり。それぐらいかな」


 父さん的には、パンチに必要な筋肉は正しい動きでひたすら打ち続けていれば自然につくもんだと思ってるらしい。

 所謂、『パンチマッスル』もしくは『ヒッティングマッスル』って言われる筋肉で、何万発も打って筋繊維を損傷させる。そして『超回復』。これの繰り返しで長年の積み重ねで筋肉は出来ていく。

 そういう風に考えているらしい。


 「俺は広背筋も必要かなぁって懸垂は取り入れてたんだ」


 広背筋でパンチ力が上がると思われてるが、これは正確には正しくないっぽくて、パンチを引き戻すのが速くなる感じらしい。

 確かにパンチを戻すのが速ければ、それだけ手数が増えるって事で。広背筋も大事なんだなと思いました。


 だから俺はとりあえず懸垂だけはやっている。

 ダンベルシャドーはまだ早い。もう少しパンチの熟練度を上げてからかなと思ってます。


 ボクシングをやってると、下半身の重要性が良く分かる。

 練習をする前はとにかく上半身が大事だも思ったけど、何をするにも下半身から始まる。

 下半身から伝わった動きが最終的に上半身に伝えられてパンチになる訳だ。


 走り込み大事。瞬発力も上がるしね。

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