第7話 本格的に
「ボクシングは?」
「喧嘩には使わない」
「よし。じゃあ今日からちゃんと教えてやる」
小学生になりました。
この頃になると特典がある事を疑わなくなった。
成長の具合が尋常じゃないんだ。
今でも日々の日課トレーニングは欠かしてないし、コーディネーション能力を鍛える鍛錬も、眼球酷使トレーニングもしている。
父さんがなんかアプリみたいなのを持ってたので、反射神経や動体視力を測定してみたけど、既に父さんと遜色ないレベルでかなり驚かれた。
そのうちお箸でハエを捕まえる事も出来るんじゃないかと密かな目標にしている。
ハエなんて家で見た事ないんだけど。
そして我が家の現状について。
父さんは来年で引退するらしい。
まだ30過ぎでいまこそ脂が乗り切った全盛期なんじゃないかと思うんだけど挑戦者が居ないらしい。
階級を上げればと思ったけど、父さん的にはこれ以上上げるのはきついとの事。
「これからは拳聖を鍛えまくってやる」
既に新たな目標を見つけて未練もなさそうなので、それなら良いかと思ってます。
父さんの目から見ても俺は才能の塊らしいし。
社畜さんありがとう。特典をフルに活かして頑張らせてもらいますね。
母さんは現在妊娠中だ。
俺が幼稚園に通い始めてから仕事もちょくちょく受けてたみたいだが、またもや妊娠で活動を制限。
母さん本人はかなり喜んでるから、仕事より子供なんだろう。復帰して、既に映画3本も出る人気っぷりだったのにね。
結婚当初は美春ロスで騒がれてたのに、復帰したら人妻になったからか、大人の魅力がこれでもかってぐらい醸し出されてて、どの映画も大成功だったみたいだ。凄い女優なんだなぁと思いました。
で、小学生になった事で、母さんから正式にボクシングを習っても良いと許可を頂いた。
喧嘩になっても先に手を出さない。出されてもやり返すのは一回までとか、本当にそれでいいのかという指導は受けたが。喧嘩なんてする気ないし、手を出す気もない。
友達仲も良好である。ってか、我が家は両親共にお金持ちなので、そのお陰でそれなりに上流階級の幼稚園や小学校に通えている。
馬鹿をやらかしそうな人間はその時点で弾かれてるんだよね。偶にマウントを取ってくる様な人もいるらしいけど、母さんの実家の名前を出せば誰もが黙る。権力最高。
「拳聖はボクシングに重要なのはなんだと思う?」
「目」
これは何度も動画を見て俺なりに出した結論である。やっぱり当たらないのは正義だと思う。
「拳聖は目か。確かにお前の動体視力はずば抜けている。これからも成長したら凄い武器になるだろう。でも俺の持論は脚だ」
「脚?」
「そう。どれだけ目が良くても避けれる脚がなければ意味がないだろう」
なるほど。一理ある。
顔だけ避けてもボディとかに打ち込まれたら意味ないもんね。なるほどなるほど。
「もっと走れって事?」
「いや。既に拳聖は同年代ではずば抜けてるだろう。ただそれに慢心するなって事だな」
それはそう。
この前あった小学校の運動会では無双したもんだ。50m走なんて上級生にも勝てるんじゃないかと自負している。それに慢心するなって事だな。
「これからは普段やってる日課のランニングにボクシングに必要な基礎の練習も混ぜていく。かなり厳しい練習になるだろう。小学一年生に課すような練習じゃないかもしれない。ついてこれるか」
「世界チャンピオンになれるならなんでもするよ」
「無理だけはするなよ。俺も一応限界を見極めてやるつもりだが、流石に小学一年生に教えた事はない。体が悲鳴をあげたらすぐに教えてくれ」
「はい!」
こうしてボクシングの本格トレーニングが始まった。まずは基本の足捌きから。
基礎は重要だもんね。焦らずやっていきますよ。
☆★☆★☆★
「拳聖の体は一体どうなってるんだ?」
「そうねぇ」
ある日の晩。
拳聖も既に眠った後に、美春と二人でリビングで話し合う。
「才能しかないぞ。仮にボクシングじゃなくても、色んなスポーツで成功出来る体を持ってる。あんなの見た事がない」
「まだ6歳じゃないの。決めつけるのは時期尚早よ」
「そうなんだが…」
拳聖は2歳の後半から非凡な才能の片鱗を見せてきた。ある日から急に椅子に座って、バランスを取りながら一人で壁当てをしてたのだ。
俺もいつかは似た様な事をやらせようと思っていた。ボクシングじゃなくても、幼少期から色々な事をさせる事で将来の役に立つと思ってたからだ。
最初は苦戦してたようだが、三日もすれば当たり前の様に出来るようになっていた。
その頃は運動神経が良いのかな程度にしか思ってなかったが、今では椅子じゃなくバランスボール、壁当てのボールも四つに増やして曲芸みたいになっている。
体力も日が経つ毎についていく。
継続してたら当たり前の事だろうが、それでも成長具合が凄い。
そして反射神経や動体視力。
拳聖は目が良すぎる。既に俺と遜色ないなんて流石にやばすぎる。俺もボクシング界では目が良い方なんだ。それと同等。いやこれからの成長であっという間に追い越されるだろう。
将来が楽しみであり、心配である。
「あの才能を俺はしっかり導いてやれるのか」
「大丈夫よ。あの子はお父さんっ子だもの。試合は毎試合応援して動画を何回も見返して。私が嫉妬しちゃうくらいだわ」
この子は私の方に懐いてくれるかしらね、なんて言いながら少し膨らんできたお腹を撫でる美春。
拳聖は美春にも懐いてると思うが。というより、両者に懐いてくれてると思う。
「はぁ。拳聖の将来を考えると胃が痛くなってきた。あの才能を潰してしまったらと思うと…」
「心配性ね。大丈夫よ。拳聖ちゃんは賢い子だもの。自分の限界はちゃんと見極められる子よ」
「だと良いんだが…」
まさか子育てで世界戦より考えさせられるとは。
世の子育てをしてる方々は偉大だな。
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