第6話 雷
パパみたいになりたいで一時は父さんを陥落する事に成功した。
それはもう効果覿面だった。簡単に1RKO。
世界チャンピオンに二度目の土をつける事に成功したまで良かった。
俺の殺し文句に父さんはかなり喜んで、手取り足取り丁寧に教えてくれた。
専門用語ばっかりで分からない事もあったけど、俺からしたら何かもが新鮮で楽しい時間を過ごせた。その時間が続いたのも30分だけ。
何やら騒がしい雰囲気を感じたのか、母さんがやってきて、特大の雷を父さんに落とした。
あんなに怒ってるのを見たのは初めてだ。
いつも温和でにこにこ笑ってる美しい母さんだったのに、あの時ばっかりは般若に見えたね。
普通に泣いちゃったもん。まだまだ感情の制御が出来んのです。
母さんの言い分は、まだまだ物事の善悪が分かってないのに、ボクシングを教えるのはよろしくないと。これから幼稚園とかに通うのに、喧嘩でもして習ったボクシングで相手に怪我をさせたらどうするつもりだと。
それはもう懇々と。父さんは正座でかなり長い時間説教を受けていた。三度目のKO負けである。
世界チャンピオンなんて関係ない。我が家では母親がチャンピオンなのだ。
まぁ、でも母さんの言い分はもっともである。
俺は前世の記憶があるからそんな事しないと思ってるが、母さんはそうではない。
万が一があったら、父さんだって非難される事だろう。俺だって幼稚園に居辛くなるかもしれない。
しっかりとした理由でひたすら説教。
正論ばっかりで父さんは全く反撃出来ない。ボコボコに打たれっぱなしである。
ちょっと申し訳ない事をしちゃったな。
先走り過ぎた感は否めない。ボクシングの基礎はもう少し我慢して体作りを重点的に頑張る事にしよう。
そしてそれから更に時が経ち。
幼稚園に入学した。
あれからボクシングは知識を蓄えるだけにしている。試合を見るのは怒られなかったからね。
YeahTubeでひたすら動画を見てる。
まだまだ知識が浅いから凄いなぁぐらいにしか思えないけど、パンチ一つでもかなりの技術が詰まってるんだろう。30分だけ聞いたジャブの打ち方でも、父さんはかなり考えてるみたいだった。
「拳聖ちゃん。そろそろ時間よ」
「はーい」
ずっと動画ばかり見てるせいで、一日に制限時間を設けられてしまった。
お手伝いとかすると延長時間を貰えるんだけどね。出来るお手伝いは全部やって、毎回ギリギリまで動画視聴をしている。
「はぁ。どんどん拳ちゃんに似ていくわねぇ」
「将来はパパみたいになるんだよ!」
スマホを母親に返すと、苦笑いしながら頭を撫でてくれる母さん。俺がボクシングに興味を持つ事に否はないらしい。
母さんのお爺ちゃんに一回会った事あるんだけど、中々お金持ち一家の一人娘らしい。
絶対結婚の時に一悶着あったよねと思うぐらい名家らしい。旧姓神宮寺だしね。如何にもお金持ちっぽい苗字だ。
言ったら悪いけどボクシングは野蛮って見られてもおかしくないし。
立派なスポーツだとはいえ、殴り合いだからね。
普通に父さんと仲良さそうに見えたけど、色々紆余曲折あったんじゃないかなと勝手に思ってる。
俺に見せる姿は孫にゲロ甘の好々爺って感じだけど。ずっと猫可愛がりされたし。
日々の体作りは非常に順調だ。
これはやっぱり特典があるとみて間違いないと思う。思い込みかもしれないけど、成長具合がマジで半端ないんだ。
筋トレは全くしてないけど、幼稚園に通い始めてから、朝に早起きしてランニングはしている。
ボクシングに心肺機能は不可欠。
走り込みをしなくなった選手は選手として終わりって言われるぐらい重要だ。
ランニングと短距離ダッシュは日々の日課として取り入れている。
筋トレはしようと思ってたんだけど、どうやら父さんを見てる感じほとんどしてないっぽいんだよね。下半身を鍛えるトレーニングはやってるみたいだけど、上半身は懸垂ぐらいしかやってるのを見た事がない。
今から下半身トレーニングは成長に影響が出るかと思ってとりあえずは様子見している。
無駄な筋肉をつけると減量で苦労しそうだし。
見せ筋なんて必要ないんだ。ボクシングに勝てる筋肉があればいい。
本格的に教えてもらえるようになるまで、筋肉関係はとりあえず放置。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「拳聖は4歳にしては体力がありすぎるな」
父さんのランニングについて行ってるんだけど、当たり前ながら基礎体力が違いすぎる。
俺はひーひー言ってるのに父さんは息さえ乱れていない。それでも体力がある方だと褒めてくれるけど。
「拳聖ちゃん、水飲む?」
途中で毎回置いていかれるのは分かってるので、母さんが自転車でついてきてくれている。
朝早くから付き合ってもらってすみません。
分かってた事だけど大人には全然勝てないな。
しかも世界チャンピオン。一瞬だけでもついていけてるだけ御の字か。
これでもかなり成長してるんだけど。目標は12Rひたすら打ちっぱなしでもバテない体を作る事。
まだまだ道のりは長いぜ。
「じゃあ帰るわよ。幼稚園の準備しなくちゃ」
ついて行ける所まではついていき、無理になったら引き返す。
日々距離が伸びて成長が実感出来るのは良い事だな。ここからは短距離ダッシュとインターバルを我が家まで繰り返す。
そしてそのまま幼稚園だ。
世界で一番忙しい4歳児なんじゃなかろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます