第4話 トレーニング


 赤ちゃんって暇なんだなぁ。

 寝てうんこして寝ておっぱい飲んで寝て。

 起きてる間は基本暇。

 マジでやる事ないんすわ。


 って事でトレーニングをしようと思う。

 いや、何がって事でなのかって話なんだけど。

 暇だからさ。父親は将来ボクサーになってほしそうだったし? こういうのって幼少期からトレーニングすると効果が高いんでしょ?

 ゴールデンエイジ? ゴールデンタイム? なんかそんな感じの事を聞いた事がある。

 流石に赤ちゃんの頃から鍛えてる奴はいるまい。


 それに俺には特典がある。かもしれない。

 すぐに確認出来る感じじゃないから、あると信じてトレーニングする。

 『コーディネーション』に関しては意味も分からないし。服のセンスが良くなるのかね。


 ボクシング知識はほぼ無いに等しいので、試合を見ててこれが大事なのではと思った事を自分なりにトレーニングしてみる。


 幸い我が家は父親が暇さえあれば、ボクシングの映像を流してるから教材には困らない。

 見てても痛そうだなぁとかしか分からないけど。


 で、そんな俺が大事だと思ったのは目だ。

 ボクシングを見てて思ったのは、パンチに当たったら痛そうだな、当たりたくないなって事だった。

 なら、動体視力? 反射神経を鍛えて、当たらなければよかろうと思ったのだ。


 「むー」


 リビングのカーペット上にちょこんと座って唸り声を上げる。

 俺氏は片言なら喋れるので、不審に思われる事もない。俺がうんうん唸ってるのを母親は微笑ましそうに見ているけど、気にしない。


 動体視力とか反射神経ってどうやって鍛えるんだ? 確か眼球の筋肉がうんたらとか聞いた事がある。そして俺には『超回復』がある。はず。

 だから眼球の筋肉を酷使しまくれば、自然と鍛えられるんじゃないかと思った訳だ。

 俺の理論が合ってるのか知らないけど。


 ふむぅ。とりあえず目がしんどくなるまでキョロキョロしとけば良いか?

 あー速読とかも効果があるって野球部の奴が言ってたような。


 まだ本を読むには早いし、とりあえずキョロキョロしよう。何もしないよりは良いはずだ。

 ゴロンと寝転がって天井を見上げつつ、上下左右と忙しく視線を動かして眼球に負荷を与えてみる。


 つ、疲れる。

 30秒もしないうちに眼球周りが熱くなってきた。

 果たしてこれで良いのか。視力とかに影響が出なきゃいいけど。

 俺はそう思いながらも、両親に不審に思われないように鍛える方法が思いつかなかったので、起きてる間はひたすらこれを続ける事にした。



 「誕生日おめでとう!!」


 「拳聖ちゃん! こっち向いてー!」


 「あーい!」


 それから一年と少し経ち。

 皇拳聖こと、俺氏は2歳になりました。

 今では普通に歩く事も出来るし、言葉もそれなりに話す事が出来る。

 子供らしい演技は疲れるが。不審に思われてないといいけど。


 誕生日ケーキの前に座って、母さんがパシャパシャとお高そうなカメラで俺の事を撮っていく。

 表情緩みまくりである。未だにこの国民的女優だった人が母親ってのは慣れないな。

 なんたって俺はこの人の母乳で育ったんだぞ。世の男性ファンに殺されたりしないだろうか。

 大きくなった時が心配です。


 父さんは俺が2歳になるまでに二回防衛戦? ってのに勝利してるらしい。

 1歳後半になった時に初めて試合を母さんに連れられて見に行ったけど、迫力が半端なかった。

 正直かなり魅了された。今までは父さんが喜びそうだからとりあえず頑張ってみるかって感じだったけど、自分もあの舞台に立ってみたい。

 そう思わせてくれる程の魅力があそこにはあった。


 「誕生日プレゼントだぞー!」


 「ありあとー!!」


 「はぅ! 可愛いわぁ」


 母さんのシャッターを切る手が止まらない。

 立派な親バカしてるぜ。そろそろ仕事に復帰するみたいな話も出てるらしいけど、果たして子離れ出来るのかね。


 誕生日プレゼントは戦隊モノのロボットだった。

 正直滅茶苦茶嬉しい。

 いや、お前前世大人だろうとか言わないでほしい。普通に面白いから。俺が前世であまり見た事無かったのも大きいんだろうけど、どハマりした。

 普通にハラハラドキドキする。勿論ライダー系にもハマってる。既に変身ベルトはおねだり済みだ。

 俺にかなり甘い両親だから、そのうち買ってくれると思う。


 それにしても。

 ボクシングって儲かるんだなぁ。

 いや、父さんが世界チャンピオンって事もあるんだろうけど。一回の試合で平気で億単位の金が動いてるっぽい。

 母さんも売れっ子女優って事で、我が家はかなり裕福だ。恵まれてるなぁって思う。

 前世の事があるから余計に。俺は頑張ってこの注いでもらってる愛に恩返しせねばなるまい。


 って事で今日も眼球トレーニング。

 正直効果が出てるのかは分からない。

 でもキョロキョロ出来る時間は増えてるし、良くなってきてるんじゃないかと信じてる。

 こういうのは気持ちが大事だ。俺は特典持ちだと信じて『超回復』さんに頑張ってもらってると思っている。


 『柔軟な体』も試してみてはいる。

 でもやっぱり幼児って普通に体が柔らかいっぽいんだよね。父さんが家で柔軟やってるのを、子供らしく真似してみてるんだけど、普通に柔らかい。

 父さん達も驚いてる様子はないし、幼児の体が柔らかいのは普通なんだろう。


 俺が父さんの真似をしたら滅茶苦茶嬉しそうにするけど。子供って大人がやってる事を真似したくなるよねって理論で検証の為にお付き合い頂いている。


 後は『コーディネーション』か。

 これはまだ無理だなぁ。

 自分で服を選ぶ機会なんてないし。

 でも両親が着てる服とか見ても特になんとも思わないんだよね。『コーディネーション』の俺が解釈してる意味が違うのか、特典がないのか。

 出来れば解釈違いでお願いしたい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る