第2話 三つの特典


 ガチャガチャ?

 生憎ソシャゲとも縁が無かったが、これまたクラスメイトがバイト代を突っ込んで一喜一憂してたのを知っている。

 特典ってそんな運で決める感じなの? てっきり選ばせてもらえるかと。


 「これを三回回してもらいます。それで出てきた特殊能力と記憶も持って異世界に旅立ってもらう事になります。よろしいですか?」


 拒否権ないよね? 選ばせて欲しいとか言っても無理っぽいし。仕方ない。俺は運が良いとは思ってないけど、これに賭けるしかない。

 出来れば良い感じの、冒険者とやらに役立つ能力をお願いします。


 って事で一回目。

 レバーをガチャガチャと回すと一つのカプセルが出てきた。手が無いのにどうやって回したんだとか言わないでね。なんか回せたんだ。

 社畜はそれを開けると能力名を教えてくれる。


 「ふむ。『柔軟な体』と」


 何か目の前にホログラムをだしてぴこぴこと操作する社畜。急にそんなハイテクな感じを出さないでほしい。もう全部それで処理すれば良いじゃん。机の上にある書類の山とかマニュアルとか全部紙だったじゃん。


 それにしても柔軟な体か。果たしてこれは当たりなのかな? 努力次第でなんとでもなりそうな能力なんだが…。いや、努力ではどうにもならないぐらいぐにゃぐにゃボディって可能性も…。


 「では二回目をどうぞ」


 俺が考えてる間に操作は終わったらしい。

 って事で二回目。なんかカッコいい能力が出てください。


 「『コーディネーション』と」


 うーん。横文字。確かにカッコいい感じだけども。意味がちょっと分かりませんね…。

 コーディネーション? なんか服とかを選ぶ時の事をそう言うんじゃなかったっけ? それはコーディネートか? いや、どうせ似た様なもんだろ。

 これはちょっと役に立つか微妙ですねぇ。


 「次で最後です。どうぞ」


 くぅー。頼むから戦える能力。なんかムキムキとかそんな感じで。ゴリゴリでも良いから。

 異世界とやらを楽しめる能力を。


 「ほう。『超回復』とは」


 ぬ? 管理人さんがびっくらぽんしてるぞ。

 良い能力なのかな? 確か超回復ってあれだよね? 筋トレしたら、回復する力が有り余って更に筋肉がつく的な。ふわっとした知識しかないんだけど、そんな感じだったような気がする。これは良いんじゃないかね。努力はしないとだけど、それでも強くなれそうな気がする。


 「悪くありませんね。当たりの部類だと思いますよ。今、過去データを見てたんですが、口笛とか指パッチンとかもあったみたいですし。それに比べると良い結果になったんじゃないでしょうか」


 指パッチンに口笛?

 やべぇだろそれ。どうやって生きていくんだよ。

 大道芸人か? いや、普通は特典なんてないんだろうし、堅実に生きるならなんとかなるのか?

 それなら異世界に行く意味もなさそうな気がするが。


 「では転生処理を始めます。そのままお待ち下さい。あー疲れた。丁寧な言葉遣いってしんどいんだよー。ったく管理部のやつめ。余計な仕事を増やしやがってからに。今度文句言ってやるー」


 漏れてる漏れてる。

 恐らく心の中で言わないといけない事も漏れちゃってますよー。まぁ、忙しそうなのに更に関係ない仕事をやらされちゃうとそういう気持ちになるのは分からんでもないが。

 当事者の俺の前で言わないでくれると嬉しかったなぁなんて思っちゃったり。


 お、転生とやらが始まったのかな?

 なんか俺の白い魂がキラキラと輝いてきたぞ。


 「ふぇ、ふぇ、ぶえーっくしょん! 馬鹿野郎べらぼうめ!」


 いやいや。くしゃみの癖。

 何故に江戸っ子風。あなたは神様的な存在じゃないの? なんか人間かぶれし過ぎじゃない?

 せっかくの俺の門出を癖の強いくしゃみで送り出すなんて。とんだ神様もいたもんだ。


 「ズズッ。ん? あれあれ? やっべ!!」


 まもなく俺の体が消える時に何故か社畜が焦り始めた。

 ちょっと。こんなギリギリで不安になるような事はやめてくれる? 何があったの? 教えて欲しいんだけど。

 そんな事を思っていたが、俺は意識を失ってしまった。




 「行っちゃった。やばいってー。やらかしちゃったってー。なんであんなところでくしゃみがでるかなー。なんか鼻がムズムズしちゃったんだよー」


 白い魂に社畜と言われた男はワタワタとしながら、ホログラムを出してどこかに連絡する。

 ペコペコしながら喋ってる所を見ると、どうやら上司に事の顛末を報告してるみたいだ。


 「はい。はい。え? そのままで良いんです? 確かに表向きには分かりにくい能力ですが…。はい。仰る通り。申し訳ありません。はい。はい。分かりました。失礼します」


 何度も何度も謝って報告が終わったのかため息を吐く社畜。

 その顔は助かったと思いながらも複雑だ。


 「大体俺の仕事じゃなかったのに、なんで俺が怒られる訳? はぁーやだやだ。これだから中間管理職は嫌なんだ。あー出世してー。降格でもいい。程よく働きたいよー」


 社畜はぐちぐち文句を言いながら書類処理を再開する。文句は言いながらもしっかり働く。

 それはもう立派な社畜である。


 「あの人の人生に幸多からん事をーつって」


 独り言を呟きながら黙々と。

 定時までに終わらせるぞと意気込んだ。

 

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