第5話 心の叫び声
キャンプ場の職員にモモコの容姿の説明と、喋る事が出来ない事を伝えて、間もなく私達の両親も慌ててキャンプ場にやって来た。
「ヒロト!モモちゃんから目を離すとか、絶対にアカンやろ!」
「すみません、近くに居るものだと思って……」
「マオちゃんは?」
「モモちゃんを探しに向かってます」
『バチッ!』
「自分の不注意でモモちゃんが居なくなったのに、こんな所で『オロオロ』してる場合なの?」
「俺は……」
ヒロ君は何も出来ずに立ち尽くしていたらしい、そんな時にキャンプ場の職員が来場者から聞いた話を報告にきてくれた。
モモコとよく似た女の子が、数人の子供達と上流に向かって行くのを見たというものだった。一緒にいた子供達はそれぞれの親元へ戻っているみたいで、行方が判らないのはモモコだけ……
職員から周辺地図の説明を受けて、上流を重点的に探す事になった。既に日が傾いて数時間もしないうちに真っ暗になる。警察も駆けつけてくれて大人数で捜索をした。
小さな女の子の足だから、深い場所へは行けないと思いながらも懸命捜索をしたけど、日は完全に暮れてしまい、灯りなしでは何も見えなくなってしまった。
(こんな暗い所で1人で居るなんて……モモちゃん怖いよね1人にしちゃってごめんね。ママの声が届けば少しは安心できるよね?)
そう思った私は力の限りを振り絞ってモモコの名前を叫んだ。この声が届けば少しは安心してくれるのだと信じて……
「モモちゃん〜、動くと危ないからじっとしててね!ママがモモちゃんを見つけるからね〜!」
「モモちゃん〜、近くにママが居るのからね〜、怖くないからね~!」
声が枯れてもひたすらモモコに呼び掛け続けると、何か聞こえた気がしたので耳を澄ます。
「……」
僅かだけど小さな声が聞こえた気がした。聞き逃したくないので、周りに静かにするようにお願いをして全員が耳を澄ますと、微かだけど女の子の声が聞こえた。
「ママ……ママ」
初めて聞く声だったけど、私にはその声がモモコの声だと判った。
「モモちゃん、ママだよ!もう一度呼んでみて」
「ママ、ママ〜」
ハッキリと聞こえた方へ灯りを向けて私は全力で移動すると、光の先の大粒の涙を流しながら私の事を待っていたモモコが居た。
「モモちゃん!もう大丈夫だからね。怖かったね1人にしてごめんね……もう離さないからね」
最愛の娘を抱きしめた時には不安から開放されたようで、私の胸に顔を埋めていた。
一応は検査の為に病院へ連れて行ったけど、それ以降はモモコの口から声が発せられる事は無かった。あの場に居た家族もモモコの声を聞いていたけど、あれは『心の叫び声』だったのかな?
(モモちゃん、いつか本当の声を聞かせてね?)
モモコの本当の声を聞ける日が近いなんて、この時の私は思ってもいなかった。
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