後編 武士道をみつけたり
ダンジョンの中だと言うのに清々しい目覚めだった。
いがみ合う二人には、戦いの果に友情が生まれる。
昨晩はそんな男の戦いだった。
今は右手に刻まれたタトゥーが友情の証にさえ思える。
ゼンはそんな晴れ晴れしい気分で素振りをしていた。
なぜなら、ロイを泣かすことに成功し刀を手に入れたのだ。
「切腹! 切腹!」
ロイから借りた刀は一振りごとに手に馴染んだ。
昨晩、無事に刀を借りて、すぐに転職を済ませたのだ。
ゼンは出しっぱなしのステータスをニヤニヤと眺める。
【職業
○ 刀による魔力を帯びた攻撃
○ 武士は食わねど
✕ 切腹 致命の一撃を与える (発動条件を満たしていません)
【次の転職条件 サムライ】
△ 義、勇、仁、礼、誠、名、忠を重んじる
ゼンは【浪人】という魔法戦士になった。
ロイはといえば捻り上げられた所が腫れてしまい、今はスターシアさんの治療を受けている。
「ははは、
ゼンは完全勝利に酔いしれていた。
「あー、早く切腹したいなぁ」
*
「やりすぎだろ!」
勝利に浮かれていたところ、レンに滅茶苦茶怒られた。
「いやアレは、対等な勝負だったんだ。ブシドーっすよ」
因みに転職が終わったので、もうござるは言わなくて良い。
転職の条件を満たす瞬間だけ必要だった。
「いやいや、レンも俺の武勇伝を聞けば感心するっす。正々堂々の勝負だったんすよ」
ゼンは昨日の勝利を反芻し、右手で何かを捻りあげるような動作をした。
「あの毛玉は強く
頭を抱えるレンの顔が何故か赤い。
「ゼン君は、そういう面では安心だと思っていたのにね」
スターシアさんにも呆れられている。
その後ろにはロイの姿があった。
「おはよう親友! いい朝だな。太陽見えないけど! この刀って武器は最高だぜ」
陽気なゼンに対し、ロイは過去最大の警戒で唸り声を上げている。
「どうした親友。あれ? 友情は? ポニテ触っても良いんだぞ?」
「ばるばるばる!」
「まぁ、色々と隠しすぎた私らも悪かった」
「ロイも意地を張らずに言えばよかったのよ」
「いったい、なんの事っすか?」
とぼとぼとロイがゼンの前に出て来た。
「まずはゼン君が謝る! ちょっとだけど歳上なんだからね」
「は? コイツってやっぱ歳下なんすか?」
それは、大人気ないことをしたかもしれない。
サムライは子供にも優しいのだ。
「たしかに、歳下の仲間を泣かすのは駄目っすね、反省するっす」
ゼンは握手を求めて手を差し出した。
しかし、この機会に上下関係を思い知らせるのも悪くはないだろう。
浪人が優しいのは女性と幼子にだけだから。
ゼン手を伸ばし、握手を求める。
「お前の弱いところを捻り上げてゴメンな」
「ひぎぃ!」
二人はため息をついている。
「スターシア。この二人どうなると思う?」
「ちょっと想像つかないわねぇ」
二人は今の浮かれているゼンには期待できないと諦める。
「ほら、次はロイ」
ロイが骨兜を脱ぐ。
じっとゼンを見つめる飴色の肌と大きな猫の瞳。
「ロイだ」
つっけんどんにロイが言った。
「いや、しってるけど?」
ゼンも意味がわからずストレートに返事を返す。
「ロイ。自己紹介くらい本当の名前でしときなさい。
む~っと唸り声を上げていたが観念したらしい。
「そうだぞ、女の人を困らせるな。俺のステータスボードを見て学べ」
ニヤリと笑い戒めに右手で物をつまむジェスチャーをすると、ロイがビクリとした。
効果は抜群だ。
「
涙目でロイが言う。
勝ったなガハハ。
「違うでしょ。
「なんだ、ロイは偽名なのか? 嘘はだめだぞ。女性には誠実でないとな」
スターシアさんはますます頭を抱え、レンはなぜか笑いをこらえていた。
「ローズ……マリー」
ん?
ゼンは摘み上げる仕草を止めた。
「ローズマリー・バルバ」
「ローズマリー? 女の子みたいな……名前だね?」
毛玉、ではなくローズマリーが毛皮を肩のあたりまで下げた。
飴色の華奢な肩があらわになる。
ゼンの肩とは明らかに異なる細さと丸みをしていた。
「肩幅ぁぁぁ!」
「証拠を見せたいけど、毛皮はここまでしか脱げない……腫れてるから」
「ローズマリーの花の
ゼンはさっと、右手を背中に回して隠す。
「うわぁぁ!」
「あれ? じゃあ、あの吸い付く様な手触りの良い壺は?」
「ゼンはエッチだな」
「俺が捻り上げてたのは?」
「ゼン君は悪いエッチさんですね」
俺に味方は居ないのか? ゼンは親友に助けを求める。
「いや、その……だってほら。えーと、チョット嬉しそうだったよね?」
「変態! 呪ってやる! ばるばるばる!」
「死んで詫びるでござる!」
そして、ステータスボードに変化が現れる。
【職業 浪人】
○ 刀による魔力を帯びた攻撃
○ 武士は食わねど高楊枝 布の服でも我慢できる
○ 切腹 致命の一撃を与える ☆☆☆NEW☆☆☆
【次の転職条件 サムライ】
✕ 義、勇、仁、礼、誠、名、忠を重んじる
こうして魔王も世界も関係のない、中級冒険者たちの生活は続くのである。
おしまい
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迷宮で咲く花 長田桂陣 @keijin-osada
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