第12話 ベトナム紀行12 思わぬ人とのツーショット写真


 帰りの車の中で話したのは、ネットで調べたベトナムの平均年収が余りにも低いので驚いたことを話した。ヒエンさんは、それは農村部も入っているからで、ハノイなどの都市部だけに限定すると、その2倍で考えた方がいいと話てくれた。専門職やエンジニアの給与はさらにそれより高いと話した。経済成長と都市部の地価高騰で便利なところのマンションは2DK当たりで2000万円もすると云った。帰ってからネットで調べるとハノイでの平均年収は5500米ドルとあった。円にして80万円程になる。年収からしたら、かなりな金額になる。


 高度成長期、私が大学卒業したら2,3年で給料が倍になった話(残業代を含むが)、公務員の給料は安いので定評があったが、バブルが弾けてからは、民間の給与が上がらず、公務員の給与水準の方が良くなってしまったという話をすると、ベトナムでも公務員の給与は安いと、それでも公務員は人気であると云った。何故?と訊くと、「それは賄賂です。もう一つの給与があるのです。公務員はお金持ちです」と笑った。ソ連、中国、そしてベトナム、社会主義国の宿命なのだろうか・・?


 それから、日本で滞在中に問題だと何か感じたことはありますか?と訊いたら、「お年寄りの孤独死です。ベトナムでは考えられません」と話し、「ベトナムは日本ほど福祉が発達していませんが、最後は子供か家族、親戚が面倒を見ます」と話した。思わない言葉に私は暫し絶句した。

 そして「それは、日本の親の方にも問題があります。子供に出来るだけ迷惑をかけないはいいのですが、行き過ぎるとどうでしょう。最後無力なった時は仕方ないでしょう」と答えた。「刃物なしでお前は親を殺す」と、親父に名文句を云わせるほど逆らった私が云える義理ではないのだが・・。

 頭の回転がいい人だとは思っていたが、旦那のトウさんに「ヒエンさんは頭がいいですネ」と云うと、トウさんは「日本でいえば、東大みたいなとこを卒業しています。頭が上がりません」と云った。「いい人を掴みましたね」と私は答えを返した。


 飲むには車なので、ヒエンさんの実家(ハノイのホテルからは車で40分ほどの距離)、の近くでトウさんが良く行くというお店に行った。「旦那はよくここに来ますが、私は来ません」とヒエンさん。昨日のレストランでは乾杯のビールをワングラス飲んだが、今日はジュースであった。

 トウさんはサッカーの試合が終わると仲間と来るのだと。日本ほど強くはないがベトナムでもサッカーは人気あると云った。日本ではサッカー以外に野球も人気があって、応援している阪神タイガースが38年ぶりにチャンピオンになったことを私は話した。ヒエンさんは江坂の居酒屋で、タイガースが人気球団であることを知っていた。


 4,5日の滞在でその国を知れる訳ではないが、見たり聞いたりした、皮膚感覚と云うのはある。女性とだけでなく、男性とも、それもお酒を酌み交わしながら、話せることは喜ばしいことだと私が話すと、ヒエンさんは「私はベトナムのごく平均的な女性で、旦那はごく平均的な男性です」と話した。

 賄賂の話があったりして、話しは政治の話になった。アメリカがしきりに中国の一党支配の事を批判し緊張を煽るが、民主主義は好ましいことだが、それぞれの国にはそれぞれの歴史がある。毛沢東の共産党なくして、新中国はなかったし、ホーチミンのベトナム共産党なくして、独立と統一はなかったのである。と持論を語った。ただ、社会主義国でも原理原則の時代は貧しかった。市場主義を取り入れる必要はあった。市場主義のところではヒエンさんは大きく頷いていた。


 トランプが大統領に再選される民主主義は如何なものか、一党独裁と云えば、日本はほぼ自民党独裁と云えると話し、日本の大陸進出に異を唱え、4つの島で十分日本はやっていけるとした、リベラルな首相もかつて自民党にもいたと、石橋湛山の名前を挙げた。「すぐに病気になって、そのあとを岸が首相になって・・それ、安部さんのお爺ちゃん」と私が話したところで、ヒエンさんはスマホの写真を探し出し、私に見せた。安倍首相とヒエンさんのツーショットである。トウさんは狙撃のニュースを知ってびっくりしたと話し、ヒエンさんは「安倍さんはベトナムによくしてくれた人です・・」と悲しそうな顔をした。


 続いて平成29年の天皇皇后両陛下のベトナム国ご訪問の写真、歓迎列の中にヒエンさんが写っているではないか、美智子妃に「日本語お上手ですね」と声をかけられたと云う。何がごく平均的なベトナム女性だ!私が湛山の名前を出し、岸首相の名前を出さなかったら、この写真は出てこなかったろうと思うのだ。私なら真っ先に「見てみて。見てぇ~!」と云うのだが・・(笑)。

「ヒエンさん頑張ったのですね」と私が云うと、「ハイ、家が貧しかったから、ワタシ頑張りました」と、ヒエンさんは応えた。


 飛行機代をパーにした、折角のお酒を没収された、失敗は他にもあったが、素敵な人に出逢えたこと、これ以上のことはない。真っ先にホーチミン廟にお参りした贈り物だと思った。残念ながら、話しに夢中で、この飲み会の写真はない。飲食でのインスタの習慣がないのだ。でも最後に3人の写真をお店の人に頼めばよかったと思っている。


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