第9話 ベトナム紀行⑨ チャンアン複合景勝地


 ホテルに現れたヒエンさんは、昨日の女子高生スタイルからは一変して、白いアオザイ姿であった。それも刺繍やスパンコールが要所に散りばめられたものであった。 私は一瞬息を飲んだ。「行きましょうか」と彼女は言った。ホテルの前までは車は入れない。ヒエンさんは夫を「旦那」と呼んでいた。「うちの旦那です」と紹介された。「トウと云います。昨日、お酒ありがとうございます」と彼はお辞儀をした。


 ハノイの気候に触れておこう。私が行ったのは11月18日だった。半そでのTシャツ、夏ズボンで過ごせると思っていた。発つ5日ほど前に「今日は寒いです。15度です。長袖の羽織るものは必ず持って来て下さい」とヒエンさんからラインが来た。日本は20度であった。

 4日間全て快晴、殆ど半そでのTシャツの上に赤いジャケット(半雨具を兼ねたジャッケト)を羽織って過ごせた。婦人服店のウインドウは冬物であった。ダウンジャケットも飾られていた。一応冬があるが、10度を切ることはない。「ダウンは要らないでしょう?」と、ヒエンさんに云うと。「みなバイクに乗りますから、風で寒いのです」が答えだった。ホーチミン市(サイゴン)にも四つの季節があるのですと、私に云った。「え~!」と私が云うと、「少し暑い夏、暑い夏、かなり暑い夏、最高に暑い夏ですと」笑った。

 ハノイの夏も高温多湿で汗ダラダラ、雨が多く5月から9月が該当するとのことだった。因みにハノイの名前だが、漢字で書くと河内になる。紅河とトーリック川(蘇瀝江)とに囲まれていたことに由来する。だからハノイには湖や池が多い。


 21日は、ニンビン省の世界自然文化遺産「チャンアン名勝・遺跡群」に行く。ハノイから100キロ、高速でも2時間弱はかかる。石灰岩質のカルスト地形で、何百年もかけて水によって侵食された奇岩や洞窟が、湖とも川とも云える水の広がりの中にある光景は、日本にある洞窟だけのカルスト地形とは違ったもので、ここでしか見れないその光景は、「陸のハロン湾」と呼ばれる。

「チャンアン=タムコック=ビックドン景勝地」古都ホアルーとともに特別世界遺産に指定された2012年に、ひとつにまとめられたものである。



 ビックドンはタムコック(三つの洞窟を意味する)よりも奥地に位置する洞窟寺院で、山中に向かって順に下寺、中寺、上寺が存在する。上寺からの眺めは息を飲むほどの景観だと云われているが、カートを持つ私は高いところを避けた。

 古都ホアルーは、ベトナム初の独立王朝といわれる丁朝の首都が置かれた場所で、ハノイに遷都するまでは、この地で国家の礎を築いたところである。小舟でのクルーズはネット案内では三つあって、時間によって違えられているとあったが、寄るところが違うだけで、どれも2時間半はかかると云うことだった。複合景勝地を全て見るには日帰りは無理で一泊は必要である。池のほとりには民宿が点在している。山羊の群れを連れている人、自転車で周遊している外人客が車の中ら見られた。


 ホアールを見学して、クルーズ(手漕ぎボート)に向かった。途中で昼食をレストランで取った。ヒエンさんには、「ヤギの肉は癖がありますが、食べられますか?」と訊かれていた。「大丈夫です、北海道ではジンギスカンを食べました」と答えたが、ジンギスカンは羊の肉ではなかったか。何と頓珍漢な答えだろう。でも結構美味しかった。

 手漕ぎボートでのクルーズは、奇岩や山は中国の墨絵の世界を思わせ、水の中に浮かぶ寺院風の建物は、王様や貴族が涼みを取り、宴を催したところで、時間が止まり、古に帰ったような気持ちにさせられた。手漕ぎの小舟は四人乗り、一人の船頭が付く。相乗り結構、二人でも4人分払えば貸し切りである。一人1500円。貸し切りで6000円である。勿論ハノイから現地ツアーがある。日本で予約するより現地で予約する方が安いと案内書には書かれていた。

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