第8話 ベトナム紀行⑧ 文廟・ドンハー門・鎖国寺


 タンロン城跡は静かだったが、孔子を祀った文廟(ぶんびょう)は観光客や参拝客で賑わっていた。世界遺産にも登録され、ベトナム最古の大学跡で、学門の神様、さしずめ菅原道真の大宰府と云ったところだろうか。白いアオザイの学生たちが合格祈願に来ていた。「文廟門」からスタート、2つ目の門は「大中門」、そして奎文閣(けいぶんかく)と続く。奎文閣を抜けるとティエンクアンという長方形の池があり、その池の左右には亀の石碑がずらりと並んでいる。亀の背中に乗っている石碑には科挙の合格者の名前と出身地が刻まれ、刻まれた人達は、名誉、誉となり、官僚になっていく。4つ目の最後の門が「大成門」で孔子が祀られている「文廟」エリアとなる。


 いまさら何の合格もあるまいし、参拝はやめて、軽い昼食、バイミーの美味しい店にヒエンさんに連れて行って貰った。ここのパンは柔らかいので人気らしい。お粥かホーばかりだったので美味しかったが、今の私には半分がやっとだった。その後、私は調べておいた日本酒を売っている店に行った。ヒエンさんはベトナム迄来て日本酒、よっぽど酒好きと思ったかもしれない。「看板が日本語ばかりだわ~」とメグさんが云った。日本大使館が直ぐ傍にある。ミニ日本人街なのだ。

 没収された山田錦に手を出した。なんと4500円ではないか(日本では1000円)、思わず隣の3000円クラスに手が行きかけた。後ろにはヒエンさんが立っている。ここは日本男子、我が故郷の酒米を使った山田錦に手を戻した。

 ジャカルタからの長旅のメグさんは疲れたと云った。私も疲れた。ハノイの喧騒に一日続けて行動するにはバッテリー不足なのだ。私はこの活気、賑わい、喧騒は決して嫌いではない。ただ、住んでいる神戸北区鈴蘭台とは天と地である。途中で充電がいるのである。夕食にはメグさんも来てもらわないといけない。ひとまずホテルに帰ることにした。


 最初の日にスケッチするつもりだったドンハー門の写真は是非撮って置きたかった。西湖の夕日が綺麗と云う鎖国寺にも行きたかったので、私は2時間ほど休憩したら、メグさん抜きで、ヒエンさんと一緒に行動することにした。ヒエンさんはその間、行きつけのカフエで時間を潰して貰うことにした。

 私は一日タクシーをチャッターするものと思っていた。メーターでない、時間幾らのタクシーがあるとヒエンさんは言った。メーター2000円なら、1600円で済むと云うことだった。市内観光にはこれがお得と、名前は「1,2,3」タクシーでお憶えやすい。

 

 ベトナムは中国文化の色彩が強い。日本との違いは、日本は海を隔ててあるが、ベトナムは陸続きである。日本の初めての遣唐使派遣は630年とされる。日本は派遣であったが、ベトナムは中国が向こうからやってきた。覇権である。大和朝廷の成立は4世紀頃とされている。ベトナムに統一王朝が出来たのは10世とされている。それまでは中国はベトナム(北部、中部)を中国の一部とみなしていた。統一王朝が出来てからも中国とは幾たびも戦争をしている。しかし、勝った場合でも、朝貢し中国王朝のお墨付きは貰っている。

 厳しい社会主義の時代があって、無宗教と答える人が多いが、仏教を慣習としているとヒエンさんは答えた。因みに、ヒエンさんの修士論文は奈良時代の仏教についてである。鎖国寺(チャンオック寺、ハノイ最古の仏教寺院)にお参りし、夕日の西湖を眺められた。

 

 よく眠ったら疲れが取れたとメグさん、再び和服姿であった。ヒエンさんを入れて3人、私のデイナー招待である。この二人があったからこそ、私はベトナムに来れたのである。屋台と云う訳にはいかない。ヒエンさんお気に入りのチョット洒落たレストランに案内して貰った。店はイルミネーションですでにクリスマスムードであった。

 ここで、日本からのお土産として、私の「風の盆の貼り絵」と「舞子さん」の絵を渡した。気に入って貰ったようである。そしてあの山田錦をご主人にと渡し、空港での没収の顛末を話した。私の故郷と山田錦の酒米のうんちくを話した。値段を彼女は見ている。キットそのことをご主人に話したに違いない。


 素敵な女性二人との夕食は料理の美味しさもあって、私はハノイビールを3缶、気持ちよくほろ酔いであった。更にホテルに帰って、既に馴染みになった近くのおばさんのお店で、2缶買って飲んで、倍賞千恵子の歌抜きで気持ちよく眠った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る