第7話 ベトナム紀行 ⑦ ヒエンさんとタンロン城跡


 ジャカルタからの旅もあって、メグさんは疲れているようであった。私はこの日、ヒエンさんとのハノイ巡りに同乗しませんかと誘った。「そうさして貰おうかしら」と云って、メグさんは車代として5000円を申し出てくれた。初対面の女性とだけより、一人女性の参加があった方が私も助かる。ヒエンさんは快諾であった。

 

 9月のアート展に来た従弟にベトナム行きを伝えた。日本語堪能でモデルにもなり得るとした女性は、結婚して、7カ月の子供が出来たと従弟は話し、「モデルは無理でも、日本語を話せる女性は都合をつけるから」と云って呉れた。

 県美美術館の版画教室で一休みしていると、従弟から電話が入った。「今、現地事務所の所長が来ていて代わるから、電話だが挨拶してくれ」と電話が入った「ヒエンです。ハノイは私が面倒見ますから大丈夫です」と元気な女性の声であった。従弟は今仕事が忙しい時期だからと云っていたので、誰か下の女性を付けてくれるのだと思っていた。所長と云うから少し年配を予想していたが、ラインで送られてきたプロフィールは30歳ぐらいの若々しいものであった。


 ラインやメールで私の描いた絵やホーチミンについて書いた文章を送り、ベトナムで行きたいコースなどを伝えておいた。従弟からは、好意でやってくれるのだが、なにがしかの謝礼や同行中の食事代等はして欲しいと伝えられていた。当然である。幾ら位と従弟に訊くと、訊いておくとした儘返事が来なかった。先方が言いにくいのなら、こちらから云った方が良いのかと思って、ホテル代が5千円であったので、このぐらいならいいだろうと、従弟に提示した。

 従弟から、ヒエンさんのメールが転送されてきた「最初の日は私が付きますから、通訳は無料でいいですが、5千円は低い、二日目のチャンアン行きの人には1万円払って欲しい。通訳を一日付けると1万5千円位なのですよ」とあった。運転手への料金も明示されていた。お金の問題ははっきりしておいた方がいい。ヒエンさんの最初の日の無料の厚意には5千円付けることを考えていた。


 従弟は、私が年金生活者だからそこのところはとか、云って呉れたのだろう。「両方とも私が付きます。2日目は旦那が運転役で同行します。〆て2万円でいいです」と云っていると、従弟から返事が来た。人が変わるより、同じ方がいい。市内巡りのタクシー代も相当するだろう。主人の方も日本語が話せると云う。男性とも話したかった。ヒエンさんへの厚意も含めて、+1万円を云った。従弟は「喜ぶよ、7カ月の子がいて、ベビーシッターに預けるらしいから」と答えた。ここで初めて、通訳兼モデルも出来る女性がヒエンさんの事であったことが判ったのである。

 翌日現れたヒエンさんは、白いブラウスに黒いジャンパースカートをくっつけたようなワンピースに、白いスニーカーの姿であった。爽やかな感じだったが、女子高校生が30になった感じだった。私はアオザイのモデルを頭の中から消した。

 

 メグさんも入れて最初に向かったのはタンロン城跡である。昔の王宮のあったところである。車の中でメグさんが昨日のホーチミン廟での出来事をヒエンさんに話した。私は廟には入らない、見たいのはハウスだとヒエンさんには話して置いた。ヒエンさんは笑った後、「それはいいことをしましたね。きっと、いいことがありますよ」と応えた。この話で、場は一変に和んだものとなった。

 ホーチミン廟とは違って人はまばらであった。それでも、アオザイ姿の人たちが見られた。ネットでお城の大門があるだけで大して何もないとことm、ネットで書いていた人があったが、小門もあり昔を偲ばれて私は気に入った。一つ現代を思わせるものとして軍用車とジープが置かれてあった。この城門の下は洞窟になっていて、戦時下ザップ将軍(ベトナム軍の創設者)が作戦拠点としたとこですとヒエンさんが説明を加えてくれた。私がハノイでベトナム戦争を想起させたCONGカフエの写真に次ぐ2番目の場所であった。戦争博物館は別にして、他にベトナム戦争を思わせるようなものは、私が廻った範囲では他になかった。木陰での休憩では、メグさんがヒエンさんの似顔絵を、私はそれを写真に撮った。

 

 私が、小門が好きだと云ったので、それでは次に孔子を祀った文廟に行きますかとなった。今日はここまで。

 お金のやり取りの場面に文を取られたが、日本人の(私の)悪い癖として、お金のことを訊いては失礼だとか、言っては失礼だとかがある。勿論その様な場面もあるが、最初にはっきりさせて置いたから、後のヒエンさんとの旅は楽しい物となったのである。

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