第6話 ベトナム紀行⑥ カフエ巡りとホアンキエム湖周辺


「ホテルでぐっすり寝たから楽になったわ」と、メグさん。着物からラフな装いに変わっていた。夕方、ドンキンギアトウック広場に出かけた。旧市街に接するホアンキエム湖に面した賑やかな広場だ。その周辺にヒエンさんお勧めのカフエが2,3あるのだ。湖に面して3階からの眺めのいいテラスがあるカフエが目に入った。色から朝入ったCONGカフエ(ハノイに5店舗ある)と分かったが、一番の場所にある。狭い(過ぎる)階段を登って3階へ、テラス席は満席だったが、一つが空いたので、メグさんに座って貰った。何せ、カフエ巡りがメグさんの目的なのだから。

 すぐにスケッチを始めたようだった。そのうち、笑い声とサンキューと云う言葉が聴こえて来た。テラス席の横に座っていたカップルのご婦人の似顔絵をメグさんが描いたのだった。メグさんは英語で話せるが、それ以上のコミュニケーションがこれである。


 その間手持無沙汰の私は、横にインテリアとして置かれていた古い本を眺めていた。メグさんは英語や広辞苑の辞書に描き、ピリピリと破ってハイポーズと写真を撮って相手にプレゼントする。用紙も残り少なくなった、折角だからベトナム語で書かれて物で描きたいと云っていた。似顔絵ってみな結構好きなのはアート展で分かっていた。好きなのは万国共通のようである。素晴らしいアジアの婦人の笑顔がそれを語っている。その二人の席が空いたので、私も横に座った。

 とってもメグさんの様には描けない、広場の風船売りが目に留まった。先ほど湖を眺める女性の後ろ姿を撮った。シクロがある。カップルがいる。家族連れがいる。その内ゴミ収集車が来た。雑多に入り乱れた広場・楽しそうな広場、これを絵にしょうといっぱい写真を撮った。大きな絵でしか描けない。どんな作にはなるか分からないが、パーツを寄せて絵にしてみようと思う。ベトナム訪問は平和になったこの国を見たいもあったが、もう一つは絵を描く刺激を貰いたかったのだ。


 この後、旧市街を湖の上の方(どちらが東西南北かさっぱり分からないからこういうしかない)をぶらついた。夜店が出るらしく、道の真ん中に台やハンガーが並び出した。この通りは縦には車の侵入は禁止のようだ。両サイドの店は当然、道部分にまで商品がせり出している。店でない家の前には当然、屋台が並ぶ。何もせず、道に椅子を出して人々を眺めている人もいる。道を最大限有効活用している。メグさんも私も土産物用の雑貨を買った。

 何だか街を歩きながらホテルまで帰りたくなった。地図で見た感じでは15分ぐらいだ。それなら、黒いカートでも歩ける。メグさんは方向音痴だと云う。嵐さんが頼りよと云う。しばらく歩くと、「どっちだっけ?」になる。道を訊くにも言葉が、ホテルの名前を書いたものをお店の人に見せても首を?とする。2,3見せたがダメ、丁度、シクロが目に入った。書いたものを見せた。OKというサインだ。タクシーより歩いた感覚で街が見れる。シクロに乗ったツーショットの写真もいい記念になる。すぐに決めた。


 ところが、そのシクロの男性、途中で仲間に道を訊いているようである。私に書いた紙を見せろと云っては、人に見せている。「大丈夫かい?」「You are OK?」OK、OKと云うが紙は手放さない。やっとホテルの前について写真をその男性に撮って貰った。さて、払う段になって、云われて金額をメグさんが払おうとしたら、もう1枚と云う。馴れないゼロ三つの世界。紙幣の顔は皆ホーチミンだ、メグさんは財布を出してそこから紙幣を抜くように云った。男は二本の指を出した。お前たちは二人だと云うのだ。メグさんは私が払うからと払った。後でヒエンさんに訊くと4倍取られてと云うことだった。

 シクロはホイアンで乗るつもりだった。最初に値段を訊くこと、単位は30分で幾ら、その金額もノートにはメモしていた。ノートはホテルのカバンの中だった。日本の調子でハイと手を挙げてしまったのだ。タクシーとシクロはともかく注意だ。

払ってくれたメグさんに私はプレゼントした。CONGカフエに無造作に置かれていた古い本である。メグさんはアレ~とした顔をしたので、「ホーチミンからのプレゼント」と云ったら、嬉しそうに「最高だわ~」と云った。

 

 メグさんは疲れたから、昼に市場で買ったお弁当を食べると云った。私もハノイビール缶を近くで2缶買って、その弁当を夕食にした。

 テレビを観たって分からない。ホーチミン廟のハプニング、ドンスアン市場の圧倒的な山積み、広場の光景、シクロの騙し男。今日の一日を思い浮かべながら、スマホで倍賞千恵子の歌と、竹田の子守唄を聴いて、その夜は眠った。

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