第5話 ベトナム紀行➄ ホーチミン・ハウスとカラフルアオザイ



 黒いカート、私の杖を取り上げられて、メグさんは「どうします?出ましょうか?」と、気遣ってくれた。私は廟を見に来たのではなく(結果、中に入って思わぬ感動を頂いたのだが)、あくまでホーチミン・ハウスの方を見に来たのである。

 幸い池の周りや、植え込みには柵があったりしたので、ヘッピリ腰ながら歩いた。ハウスは高床式で、吾妻家を思わせるような感じであった。上は二室、一つは書斎とベッド、一つは居間にしていたのであろう。台所とかはなかったから、それは付き人(料理人とか)が持ってきて、下で会食したのであろうか、至ってシンプルなものであった。

 疲れた様子を見てメグさんが「私の肩につかまります?」と云って呉れたので、こんな時しかないと、遠慮せず肩に手を置かせて貰った。売店で飲み物を飲んだ。前には土産物店が並んでいて、アオザイを売っている店もあった。廟というがそれは、あの厳めしい建物だけであって、中はオープンな観光パークと云う感じであった。地方から来たであろう観光客や、家族連れで賑わっていた。

 

 何より嬉しかったのは、アオザイで記念撮影している人たちが沢山いて、「写真撮りますよ」と云って、撮って上げて、撮らせて貰って、一緒に入って撮れたことだった。色は赤、緑、青とカラフルであった。白は学生の制服だったり、特別の時に着るのだと、後でヒエンさんは教えてくれた。黄色のアオザイの女性に目が行った。ご主人を横に退かせて、厚かましく撮らせて貰った。英語?「You are beautiful」元婦人服店主だ。

 赤いアオザイの人たちを撮る時、メグさんに「入って、入って」と急がせた。アオザイと和服、日越交流写真が撮れたのである。ベトナムの人に写真を向けてもみな気持ちよくOK,ベトナム人は写真が好きですとヒエンさんは後で教えてくれた。

「街中ではアオザイを来ている人はないわよ、見るなら制服にしている学校の校門傍で待つのがいいわよ」と訊いていたので、思わぬ機会に恵まれて、これも、廟にお参りしたホーチミンさんのお陰かと思った。

 

 次に行ったのがドンスアン市場、置いてあるものは雑多、それも半端でない量、割り当てられている狭い区画に、これ以上はないと云うぐらい積み上げられている。

 私は昭和30年代、母の洋装店時代、大阪は本町・丼池の問屋街を思い出していた。荷物持ちとして学校休みなどには連れていかれた。所狭しと、商品が山積みされていた。その私が圧倒されたのである。

 小売りもするだろうが、地方から仕入れにくる人たちに卸しているのだろう。ここで女性向きのお土産としてポーチを買った(出来るだけ荷物にならないよう)、如何にもベトナム風な図柄に手が行ったが、メグさんは「女性が持つならこちらね」と、手織り風の図柄を選んでくれた。私は冬用の帽子を買った(500円)。

繊維、雑貨を買うなら絶対お勧め。私は最初の2,3の店ですぐに決めた。メグさんは早いのね、と云ったが、ここで掘り出し物を買おうと探したら、いくら時間があっても足りないと思ったからだ。


 メグさんが雑貨を選ぶとき、買おうか、買うまいかと迷っていたとき「迷ったら買い」と云った私の言葉に、甚く感心して貰った。廻って来て、やっぱりあれがいいとなって、売れてなくなっていた経験を商売柄何度かして来たのである。ここの値段なら、誰かに上げたって惜しくない。

 荷物を減らしたいのに、日本で1500円のTシャツ3枚買ったバカが云うのである。信じて貰っていい。野菜、果物、食料品とあるが、お腹が空いていたので、屋台が並ぶところでホー(米粉の麺)を食べた。ホーは何処で食べても美味しい。白ご飯の上に何でもトッピング、これでもかと詰めていい店に人盛り、釣られてメグさんも私も買ってしまった。いくらだか、私は忘れたが、メグさんは滅茶安いわと感動していた。


 市場の圧倒的な商品量、活気と熱気、人の数。その上、ホーチミン廟での行列(これは日曜日のせいもあったと思う)、思わぬハプニング、中腰での歩行、メグさんもジョグ・ジャカルタからの直行で疲れている。後カフエ巡りをする元気はなかった。街巡りは夕方からにして、取り敢えず、ホテルに帰って休むことにした。

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