そのマシュマロに恋してる

三毛猫マヤ

第1話

 端的たんてきに言って、私は今とても不機嫌だった。

 

 


 30分が過ぎていた。

 その間、彼女からの連絡は一切無し。電話をしても発信音が鳴るばかりだ。

 私の口から何度目かのため息がれた。




         *




「来年、初詣はつもうでに行こう!」




 クリスマスの帰り道を2人で歩いていた。

 あと5分もすれば自宅に到着する。

 もっと一緒にいたいのに……。


 そう思っていた矢先、彼女が嬉々ききとして告げたのだった。

 その一言に暗い気持ちが一転、再会のワクワクへ変わる。


 彼女の明るい笑顔を見詰みつめ、ふとつややかなくちびるに視線が向いている事に気付き、ほおがじわりと熱を帯びる感覚にうつむいた。


 


   今日、私達は初めてキスをした。




 ネックウォーマーを引き上げながら、そろりと自らのくちびるに触れると、先程さきほどまでの熱の残滓ざんしを感じる。


「どうかな?」

 小首をかしげてたずねる彼女に小さくうなづいた。

 




          *




 顔を上げると私の前を何組もの女の子が通過していた。


 ここ、百合姫神社ゆりひめじんじゃ百合花咲夜姫ゆりはなさくやひめという女神がまつられている。


 神話では女神同士でちぎりを交わしたと云われ、女性同士の縁結えんむすびをうたっている事から来訪者のほとんどが女性だった。


 1人の参拝客さんぱいきゃくもいるけど、女子のカップルが目立つため、なんとなく当て付けられている気分になってくる。




 私だって、彼女居るのに……。




 スマホを取り出して彼女のレインの画面を開くと未読みどくのまま。電話をこころみたが、発信音が鳴るばかり。




 ふと、不安が頭をよぎった。




 例えば、来る途中の交差点で信号待ちをしている時に車に突っ込まれたとか。


 あるいは体調をくずしていて連絡する余裕よゆうが無いくらい体調が悪いとか……。




「……」




 気が付くと彼女の家に向かっていた。

 歩きから小走りになり、走り出し、すぐに息切れしてとぼとぼと歩く。


 玄関に到着し、呼びりんに手を伸ばした時、そのドアが開いた。


「行ってきま~す! ふふ、早く行って和花のどかを驚かせて……あれ? の、和花のどか?」

 私は彼女の顔色をサッとうかがう。

 うん、元気そう。よし、怒ろう!


陽葵ひまり! もう、あなたが遅刻ちこくしたせいで私がどれだけ心配したと思ってるの!」

「ふぇ? 遅刻?」

 はて? と、ほおに指を乗せて首をかしげるとむにょんとへこむ。

 おお、マシュマロみたい。

和花のどか、そんな見詰みつめないでよ。照れるぜぃ♪」

 

 イラァッ……そのほおにむにゅむにゅ地獄を味わわせてやろうか!


「というか遅刻って? 何時から待ってたの?」

「そ、そりゃあ……」

 正直に答えようとして、なんか私ばかりが楽しみにしていたみたいでくやしさと恥ずかしさにれる。

「何時何分何十秒? 地球が何回廻なんかいまわった時?」

 いつの時代の小学生だよ!

 気持ちが白ける。

 ……いいや、素直に話そう。

「6時半だけど」

「6時半?! さすがに早過ぎない?」

「だって、7時集合って」

「え? 9時だよ」

 メモを彼女に見せる。

「ほら!」

「うん。だから9時だよね」

 え?

 よく視ると7の上の部分にかすれた丸のような物があった。

「お、怒ってごめん」

「ううん、こっちこそ、まぎらわしい書き方してごめん」

 お互いにしゅんとして、チラリと相手を見ると目が合って、どちらからともなく笑った。




          *




 おまいりを終えるとベンチに並んで大判焼きを食べる。

「あれ? 和花のどか、クリーム付いてるよ」

「え?」

 彼女が距離をめる。元より近い距離のため、すぐに肩が触れる。

 錦糸きんしのような髪がサラリと流れ、私の耳をくすぐると同時にふわり――優しい花のかおりが鼻腔びこうを包んだ。

 彼女のしっとりとした甘いささやきをいた。

「ここだよ」


 そう言って、ペロリ――陽葵ひまりほお一舐ひとなめされる。


 初め、何が起きたのか分からなかったが、ほおれ、わずかな湿しめが指先をらしたのに気付くと瞬時しゅんじ事態じたい把握はあくした。


      ふ、ふえぇぇぇっ?!      


 ず始めに恥ずかしさが前面に来て、次いでうれしい気持ちが生まれ、でもすぐにほおめられてえへへぇ~と喜ぶ自分はもしかして変態へんたいなのかもという不安を覚えたりして……にもかくにも私の脳内は様々な感情が大渋滞して玉突き事故を起こしていた。

 二の句がげずにパクパクする私の気持ちも知らず、ほおをツンツンする陽葵ひまり呑気のんきに笑った。 

和花のどかほお、いちごマシュマロみたいに柔らかくて可愛い♪」

 取りえず照れと苛立いらだまぎれにデコピンをしたのだった。




          *



 陽葵ひまりの服のすそつかみ、「ハグしたい」と告げると「いいよー♪」なんて軽いノリで彼女の家に招かれる。

 部屋に入り、はやる気持ちをおさえて、上着脱いでいった。

 両手を広げ、きらきら笑顔の彼女に、ぎゅっと強めのハグをされる。 


 目を閉じると胸の底から温かな何かがふつふつとあわのよき上がってくる感覚に、静かに吐息といきらした。




  これが幸せというやつなのかな? 

  なんて思い、じわりと照れる。



 

和花のどか、だぁーい好き♪」

「私も陽葵ひまりの事、大好き♪」

「えへ~。あ、そーいえば、まだ言ってなかったよねぇ」

「え? ああ、すっかり忘れてた」

「一緒に言おうよ」

「うん♪」


 そんな他愛たあいの無い事も、彼女と一緒にするとワクワクに変わるから不思議♪

 私って、彼女の事、超好き過ぎかも……。

 その事実に自然、口元がゆるむのだった。








『明けましておめでとう! 今年もよろしくお願いしますっ!!』











         おわり♪

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