第9話獄上の激戦
「リア充――リア充ゥゥゥゥアアアアアァ――――――――――――――――――――ッ!!」
勇者タケルが気触りのような咆哮を発した。
「魔王ベルフェゴール……! 今やっとお前のことを心の底から憎いと思えたぞ!! 俺の敵は魔族でも魔王でもなかった……リア充だ! リアルが充実しきってるお前らなんかに俺は負けない! 日陰のダンゴムシの本気を見せてやるぞ!!」
「何をわけのわからぬことを言ってる、痴れ者が。貴様のような性根の腐りきった人間が勇者だと? 笑わせるな」
勇者渾身の
「どうやら創造の女神の目はいよいよ曇りきったらしいな、このような情けない男を勇者として選び出すとは――あるいはその歪んだ
ぐっ、と、ベルフェゴールが平手を握り締め、開戦の口上を述べる。
「いずれにせよ、貴様のような人間にだけは毛ほども容赦してやることは出来ぬ。今この場でその堕ちた魂を完膚なきまでにへし折ってくれよう。獄上に、な」
「やってみせろやクソ魔王! リア充なにするものぞ! 今の俺は勇者だ! 最ッ強のパリピなんだぁぁぁぁぁ!!」
意味不明な勇者の咆哮が消えたあたりで、ベルフェゴールはのえるを目だけで振り返った。
「のえる、離れていろ。ここから先は魔王である俺の独壇場だ」
「そっ、そんなベルベル――! ウチだって聖女なんでしょ!? ベルベルと一緒に戦うよ! こういうの慣れてないからちょっと足手まといかもだけど……!」
「足手まといなどであるものか。今のお前の言葉――はっきり言って心震えたぞ。お前は既に立派に自分の仕事を果たした。魔族を慈しみ、励まし、俺たちの死んでいた誇りを奮い立たせた」
そこで端正な顔をほころばせ、唇だけで笑ったベルフェゴールの笑みに、のえるは何故なのか急激に顔が熱くなるのを感じた。
「お前は俺の後ろにいるだけでいい。それだけで俺は絶対に負けぬと約束できる。ここからは決して俺を疑うな。信じろ――よいな?」
安心させるかのようなその言葉に、のえるは頷いた。
今、そこに立っていたのは、いつもいつも自分の一挙手一投足に顔をしかめ、時に赤面して
魔族の頂点を極め、すべての魔族をその双肩に担う巨大な存在――魔王そのものとしか思えなかった。
この男、この存在は一体――?
のえるが今更にそのことに末恐ろしくなったのと同時に、魔王が勇者に向き直った。
「さて、にわか勇者、貴様にはハンデをくれてやろう」
「は――?」
「俺は今から一歩も動かぬ。頭だろうが胸だろうが好きに打ち込んで来い。それだけで貴様と俺の格の違いを教えてやろう」
身体を開き、腕を広げながらそんなことを言ったベルフェゴールに、勇者タケルは凄まじく憤ったらしかった。
既に限界までひん曲がっている顔を更に歪ませ、ギリギリギリギリ、と奥歯が凄まじい音を立てて軋んだ。
「出た出た、リア充特有の陰キャ舐めプ……! 俺はそういうのが大ッ嫌いなんだ!! ふざけるな! ちゃんと相手しろ!!」
「ふざけているのはどちらなのだ。魔王ともあろう存在がたかが子兎一匹相手するのに大砲や爆弾を持ち出すわけがあるまい。貴様なぞこの掌で十分すぎる程十分だ。――どうした、意気地がなくて丸腰相手では本気が出せぬか?」
「そこまで言うなら後悔するなよ――俺は女子小学生でも全力でぶん殴れる男だ! うおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
人間的にクズとはいえ、流石は勇者と呼ばれる存在、全身から発した魔力が音を立てて剣に集い、一振りの巨大な刃を構成する。
これで打ち込まれたら面を割られるどころか、塵のひとつも残さずに蒸発させられてしまいそうな、圧倒的な魔力を目の当たりにして、のえるも怯えた。
「喰らえリア充――積年の恨みだ! 【真・勇者斬・極】!!」
その冴えない咆哮とともに、勇者タケルは地面を蹴った。
まるでコマ落としのように魔王に肉薄した勇者の斬撃が、大上段で振り下ろされた――次の瞬間。
ガキン! という金属音が発し、のえるは目を瞑った。
数秒後、おっかなびっくり目を開けると、そこには。
勇者渾身の斬撃を、人差し指一本で受け止めた魔王ベエルフェゴールの涼しい顔があった。
「んな――!?」
のえるだけではなく、勇者タケルまでもが目をひん剥いた。
先程は明らかに本気の一撃であったのだと知れるその反応に、ふん、とベルフェゴールは嗤った。
「ふん。この指ぐらいは飛ばして見せるかと思っていたのだが――期待外れにも程があるな。当代の勇者の力はこんなものか」
◆
ここまでお読み頂きありがとうございます。
アカン、完結は明日にずれ込みます。
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そう思っていただけましたら下から★で評価願います。
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