第4話獄上の対立
この世界の有史以来、魔族は人間族より、
元々魔素が濃すぎ、草木もよく生え揃わない不毛の大地に生きてきた魔族は、生まれついて人間を圧倒する魔力を持つ。
繁殖力に勝る人間たちは、その圧倒的な力を畏れ、一方的に魔族を抑圧し、差別してきた。
そんな状況を覆すべく、魔族が「王」を戴き、人間に反旗を翻し、戦争を始めたのが約五百年前。
魔族の圧倒的な力の前に敗北を繰り返した人間どもは、遂に
人でありながら圧倒的な力を秘めた聖女と勇者の登場に、今まで優勢を誇ってきた魔族は一転して苦戦を強いられた。
聖女も勇者も人である。人であるから魔族よりも早く寿命を迎える。
人間どもは聖女と勇者の異世界からの召喚を繰り返し、一方的に魔族に対抗させた。
そのうちに戦況は
だが、その中にやがて現れるとされる存在――「魔族に優しいギャル」。
いがみ合い、憎しみ合う人間と魔族、その両方を愛し、慈しみ、包容し、この戦争を終わりに導くという存在。
魔族も、人間たちも、おそらくはその登場を心待ちにしているに違いない存在――。
無論、そんなものは単なる伝説に過ぎない。
どういう集団や一族に属しているとしても、人間は相手が魔族というだけで一方的に忌み嫌い、恐れるものだ。
ましてや聖女と呼ばれるものが、その存在自体が穢れであるとされる魔族に優しいことなど、ありえないこと、考えられないことと言えた。
第一、その「ギャル」とは一体如何なる種族で、一体どのようなものなのか。
のえるにギャルとは何か尋ねてみたこともあるが、その時ののえるの返答は、
「自分がカワイイと思ったファッション、メイク、口調、センスを信じ、己を貫く生き方をしている女性のことで、種族や年齢、職業は関係がない。あと、黒いのもいる」
という
だが――恋し浜のえるがギャルという種族を自称していることは確かだし、魔族の中には、彼女こそがそうなのだと必死に主張するものもいる。
彼女こそが伝説に名高き「魔族に優しいギャル」であり、彼女がこの五百年に渡る戦争を終わらせるのだと。
事実、今まで異世界から召喚された聖女とは違い、彼女は魔族である自分たちを恐れず、それどころかフレンドリーに接し、そして誰にも別け隔てなく優しい。
恋し浜のえるが、彼女こそが「魔族に優しいギャル」なのか?
ベルフェゴールは恋し浜のえるの、その整った横顔を盗み見た。
彼女こそが予言された「魔族に優しいギャル」なのであれば、その存在を手中に収めた自分には、この戦争を魔族側の勝利に導くということ以上に、この戦争を終わらせるという重大な責任が発生する。
魔族、人間、その両者が互いに手を取り合い、平和な世界を実現することが、戦争を勝利に導くという以上に重要な責務ということになってくる。
人類と魔族の平和な共存。その壮大に過ぎ、また甘美でもある想像に――一瞬、ベルフェゴールは、己の立場も何もかも忘れて甘えてしまいたくなった。
「いや――」
と――次の瞬間。
ベルフェゴールの中に、そんな甘えを抱いた自分に対する、猛烈な嫌悪感が生じた。
途端に、無意識に放たれている魔力が暴走し――玉座の間の窓ガラスに次々と亀裂が入り、音を立てて砕け散る。
「うぇ――!?」
ギリアムの背中を撫で擦っていたのえるが、驚いたように顔を上げ、割れた窓を見て――次にベルフェゴールを見た。
「べ、ベルベル……!?」
「……魔族に優しいギャルだと? 聖女が魔族に優しくするだと……?」
突如、魔王のそれとしか言えない凍てついた表情でそう吐き捨てたベルフェゴールに、のえるが怯えたような表情を浮かべる。
そう、聖女は魔族の敵だ。
決して
そうでなければ、何故今のこの状況がある?
聖女が慈悲深く、慈愛
その憤りが
ふん、とのえるを一瞥したベルフェゴールは、無言で踵を返した。
「べ、ベルベル――!」
何かを言いたげにしているのえるを放置し、ベルフェゴールは玉座の間を後にした。
◆
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