第8話
夏休みが明けた学校は、ひどく懐かしく感じた。教室の窓をカラリと開けて校庭を見下ろすと、日に焼けた生徒たちが校門をくぐっている。
みんな元気そう。楽しい夏休みを過ごしてきたんだろうな。
ひとりの女生徒がわたしに気づき、手をふってきた。
「アカリせんせー! おっはよー!」
二組の高橋さんだ。フフッと手をふり返す。彼女が校舎の中へ消えると、小さなため息がでた。
じつは今、ヒカルからプロポーズされている。
すぐに返事ができなかったわたしに、ヒカルは笑って待つと言ってくれた。
幸せになっていいのかな。取り返しのつかない罪を犯した自分が…。
『なんだ、まだ悩んでるのか?』
どこからか声が響いてきた。わたしの頭の中に直接、語りかけるように……。
ハッとしてふり向く。
いつのまにかアッシュが背後に立っていた。しかも、うちの学校の制服を着て。信じられない。
「どうして?」と言うと、アッシュは窮屈そうな顔をした。
「好きで来たんじゃない。ランドルフがうるさくてな。おまえのことがちょっと気にかかるし。しばらくそばで見守ることにしたんだ。そうするには、ここの生徒になるのが一番だろ」
「何それ、また勝手に決めて……。それにその姿、目立ち過ぎじゃない?」
「そのへんは手抜かりなく、留学生ということで話はつけてある」
「りゅ、留学生?」
面食らったわたしを見て、アッシュはガハハと笑った。
「驚いたか!」
なあんだ。こんな笑い方ができるんだ。その方がいいよ。外見どおり子どもに見えるし。
「言っとくけど、わたしは先生なんだよ! お忘れなく!」
新しい何かが始まりそうだ。
わたしもアッシュに向かって微笑んだ。
おわり
フローズン・ワード このはな @konohana
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