第4話

 部室に戻ると、ミズキが一人で待っていた。

「アカリ、遅かったね。だいじょうぶ? ちゃんと手当できた?」

「うん、できたよ。ほら、血も止まっているし」

「ああ、よかった~」

 とても柔らかな笑顔だ。

 胸がきゅっと締め付けられた。

 とてもかわいいミズキ。なんだか前よりキレイになったみたい。キラキラと目が輝いて、長い髪もいっそう艶やかだ。

 きっといい恋をしているからだね。わたしとは違う。

「帰ろうか」

 でも彼女の返事はわかっていた。わたしは予想通りの言葉が返ってくるのを待った。

「あのね、アカリ。じつは、ここで待ってないといけなくて……」

「知ってるよ、ヒカルと約束しているんだよね?」

「どっ、どうして? アカリ、知ってたの……?」

「ここに来る途中で、ヒカルに会ったから」

 すると、返事の代わりにミズキは耳まで真っ赤になった。

「けど、あいつ呼び出し食らってたよ。何やってんだろうね、まったく」

 ミズキは、たちまち顔を曇らせた。

「どうしたんだろう……」

 思わず息をのむ。

 ――チャンスだ。

 わたしは、さっき思いついたばかりの単純な計画を実行に移した。

「だいじょうぶだよ、いつものことじゃん。先に帰っててくれって言ってたよ」

「え、そうなの? 本当?」

「あとから走って追いつくって」

「そう……」

 がっかりしたようにミズキは、ため息まじりの言葉を吐いた。

 内心おかしくてしかたなかった。

 恋する女の子っていそがしいね。喜んだり、がっかりしたり。平気で友情より恋を優先させる。

 ねえ、ミズキ。わたしがキズつくところなんか想像しなかったんだよね?

 どうして、こんなにひどい仕打ちができるの?

 友だちなのに……。

「暗くなるから先に帰ろうよ」

 わたしはうながした。

 しばらくの間、ミズキは廊下を見ていたけれど、やがて、わたしに向き直った。

「うん、そうだね。ゆっくり歩いていたら、そのうちヒカルも追いつくよね」

「先生のお説教が長引かなかったらね」

「えー、アカリったら冷たいなあ」

「そんなことないよー」

 そうだ、たいして大きなウソをついていない。

 もし、ミズキとヒカルの間に波風が立ったとしても、二人の絆が強ければ大丈夫。

 この程度のこと、神様だってきっと許してくれる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る