第7話 ゲームセンター

「まだ帰ってなかったのか」


 正門で待っている春希に声をかける。


 先に帰って、と伝えたつもりだったが伝えそびれていたか。それか心配して待っていてくれたか。


「うん、一緒に帰る約束したし」


「そうか」


「…」


 恋と話して、特に真新しいことはなかった。僕について話したこと。彼女がこの高校に来た理由を知ったこと、くらいの内容しかない。

 話してみれば、何かが劇的に変わるような気がしていたが、終わってみれば全くそんなことはなかった。


 なので、春希になんて伝えればいいのか少し考えてしまう。すると春希の方から、


「ゲーセン行こうよ!」


と、提案される。


「え?なんで?」


 真っ直ぐ家に帰るつもりだったので、急なことについ聞き返してしまう。


「うーん、この高校が寄り道OKだから?」


「あー、そうなんだ。いいよ」


 確かに中学の時は寄り道が禁止だったが、微妙に答えになってない気がする。でも嫌な訳ではないので、行こうと思う。


 春希がゲーセンというと、多分昔からよく行っていたところだろう。

 最近はめっきり行っていなかったが、当時はかなり熱中していて春希と他の友達を誘って、みんなでよく行ったものだ。


「そういえば、帰る途中の駅で降りたら近いのか」


「そう!これからはゲーセン行き放題だね!」


 気晴らしもしたかった所だ。ちょうどいいかもしれない。


「そんなに遊ぶと成績がまずくなりそうだ」



 そうして春希と一緒にゲームセンターに向かう。道中、春希は最近もたまに行っているらしく、どのゲームが追加されたとか、なくなったとか、そんな話をしてくれた。


「全然変わらないな」


 内装はほとんど変わってないように見える。多分当時と比べると筐体の種類は違うのが多いのだろう。


「あっ、このUFOキャッチャー懐かしい」


「昔結構やってたよねー。勝がいつも少ない小遣い注ぎ込んでた」


「少ないのは小学生だから仕方がないだろ、向こうのゲームやろうぜ」


 そう言ってレースゲームを指差す。


「え、このUFOキャッチャーやらないの」


「どうせ取れないって分かってるゲームに金を使いたくないからな」


「そっか、ならあのゲームやろ」


 春希は少し意外そうにするけれど、すぐに笑顔に戻り、レースゲームの方に向かう。



 そして久しぶりのゲームセンターを堪能していく。

 レースゲームは事故が起こり放題、音ゲーではお互いあまり上手くなく、いい勝負をした。


「画面見るの疲れたからあのゲームやろうぜ、得意だろ?」


 そう言ってバスケのフリースローのゲームを指差す。


「お、いいね!」


 バスケはやめるそうだが、やっぱり好きな気持ちは変わっていないようだ。


 フリースローを始めていく。僕よりは高いが、春希は思ったより高い点数は取れなかったようだ。


「悔しー、これで終わりかー!」


「元バスケ部でも厳しいか」


「思ったより実際のバスケとは違うんだよー」


 本気で悔しがる彼女に、思わず微笑んでしまう。これだけ熱中できるバスケを辞めてしまうのがもったいないと感じるが、考えて決めたことなのだろう。


「そろそろいい時間だし帰るか?」


「そうだね、楽しかったよ」



 帰路につく。そして、どちらからともなく感想会が始まる。


「バスケのゲーム、あの点数なら僕が少し練習したら追い抜けるかもしれないな」


「次やるときは今日の2倍取ってやるから!」


 そんな話をしている最中に、言わなければいけないと思ってたことを切り出す。


「今日の放課後、話してきたことなんだけど。別に落ち込むようなことがあったわけじゃないよ」


「え、あーそうなんだ」


「幼馴染に気を使われ続けるのは、申し訳がないからな。でも今日は楽しかったよ、ありがと」


「あはは…えーと、また誘うよ」


 返事をしながら、少し居心地が悪そうにする。


 またすぐに今日のゲームセンターの話やクラスの話に戻って解散するまで話していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る