第2話 人生最低の日?

「帰るか」


 さっきまでと打って変わって、勝に元気はない。


 中学生の時に、恋に告白のことは忘れてくれ、と上辺だけは折り合いをつけている。しかし恋は、勝にとっての「敗北の象徴」である。自分は当て馬で、噛ませ犬で、負け犬なんだと。

 当時、勝が自惚れていた訳ではない。フラれる覚悟もしていたが、告白を道具のように扱われたことが、プライドが高かった勝にとってショック過ぎた。今ではなんで好きだったのかも忘れて、学校が同じになる不運も相まって大嫌いになりつつある。


(あいつが栄光高校に落ちたってことか、俺と同じで合格余裕だと思ってたけど)


 高校生活まで最悪な気持ちを残すわけにはいかない。億劫な気持ちになりながら、これからどうするか考えていると声をかけられる。


「おい、大丈夫か?」


 声の主は今朝、久しぶりに再開した幼馴染の大島春希だった。そんなに分かりやすく態度に出ていただろうか。


「え、何が?」


 落ち込んでる理由はあまり知られたくないことなので惚けてみる。


「うわっ、大丈夫じゃないみたいだね、入学式の時から元気ないよ」


「今日のスピーチで上手く話せなかったからそう見えるのかな」


「……いや、言いたくないなら言わなくてもいいけど、親友に嘘はなしにしようよ」


 今の調子だと全部バレてしまいそうだ。それにしてもまだ親友と言ってくれるなんて、疎遠になっていたと思ってたのは僕の方だけだったのか。


 どうしようか少し迷って答えを出す。なりたくて疎遠になっていたわけではないし、春希は約束を破るやつじゃない。なにより俺はこれからも春希と親友でいたいと思う。


「すまん、言える範囲で話すよ。ただ他言無用で頼む」


「うん、わかった」


 そして、中学3年の時の話から始める。告白して、保留にされ、当て馬にされ、落ち込んだ。そして別の高校に来たつもりがまた一緒の高校になってしまったこと。

 ただし、恋の名前だけは伏せた。庇っているつもりじゃないが、春希にはなんとなく、そのことを知られたくなかった。


 この話をする間、春希は熱心に相槌を打ちながら聞いてくれる。


「そんなことがあったんだ、無理に聞いてごめん」


「無理に聞いてはないだろ、言わなくてもいいって春希は言ったよ」


 話そうと俺が決めた。親友には知って貰った方が気が楽になると思ったから。


「そうだったね、あはは…」


 春希には小学生の時から恥ずかしくなると「あはは…」と苦笑いをする癖がある。当時は自信がないように見えて少し情けないと思っていた。

 ただ今は、その少し不器用な優しさが暖かい。


「さっきまで、今日が人生最低の日更新したと思ってたんだよ、それはもう中学の時より」


「そうなんだ…」


「でも春希と話せてよかった。そうならずに済みそうだよ」


 僕は入学式から初めてしっかりと笑えた。


「それはなによりだよ」


 久々に幼馴染であり親友である春希と再会し、その春希に打ち明けることでかなり気が楽になった。これで今日を人生最低の日だと思うのは、何を差し引いても違うと思えて。せめてもの気持ちを春希に伝えた。

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