第39話 王の守護
黒く大きな爆発の魔法が王の城を襲った。
「ヴァルデンリッヒ様!!」
エドワードが大きな声で王様に叫ぶ。
彼は爆発の魔法と同時に王の元に向かった。
次の瞬間、エドワードは王の前に立ち最大出力の防御魔法を自分の身体に掛け、身を挺して王様を庇う。
数分経ち、爆風で頭を打ち気を失った王様が目を覚ました。
「何事だ…一体、何が起こったのだ?!」
王が目を開けると、あれだけ高く聳え立ったはずの城が瓦礫の山と化していた。
「ご無事でしたか…。幸いです。」
目の前で起き上がったエドワードが、今にも消えそうなほど小さくて細い声で言った。
全ての魔力を一瞬で使い果たし、さらには両腕を失って大量に出血している。
「エドワード、何があったというのだ…あの盗賊の仕業か」
「残念ですが、違うようです。それより、もっとタチの悪いものですよ。」
王の娘、オリビア・ドラゴンハートも父同様に数分経ちようやく目を覚ました。
「ようやくか、お姫様。」
「ここは…」
真っ暗で小さな闇の中。どうやらたくさんの瓦礫の隙間でたまたま二人だけ助かったようだ。
「あの爆発の一瞬で、エドワードは王様を助けようとしていたのが伝わった。だから俺は彼を信じて君を助けることに決めたんだ。爆発が届く前に君のとこに移動して、出せるだけの最高出力で最高硬度の結界魔法を発動するのは中々骨が折れたよ。なんせ初めての結界魔法だったからね。教えてもらった時よりかは上手くできたと思うよ。」
彼女が起き上がろうとしたその瞬間、左足のふくらはぎに激痛が走った。
「きゃああ!!」
「叫ぶだけの体力があって安心した。俺の結界魔法も完全じゃなかったようで、爆発で結界が壊されて崩れ落ちた瓦礫までは防ぐことができなかった。奇跡的に瓦礫は俺たちを避けて落ちてくれたが、君の左足だけはそうはならなかった。」
オリビアが痛む左足を見ると、ふくらはぎが大きな瓦礫の下敷きになっていた。
「うそ、うそうそうそうそ!どうして!!」
「落ち着け。君には今二つの選択肢がある。このまま何もせず、出血死するか、左足を切断して命だけは助かるか。」
「そんな…責任取って治しなさいよ!!!」
「そんな無理を言うな。せめて自分で決めてもらうために、寝ている間に切断しなかったんだよ。」
「あんたなんかに頼っても仕方ないわ!医者が来るまで待つわよ!」
「もし出血死する前に医者が来たとしても、その頃にはその足は壊死しているだろう。俺の眼でその足の容態も、この瓦礫の外も見える。この近くの人間は、王様や転移者以外ほとんど死んだよ。ちゃんとした医者なんて一人も生き残っちゃいない。」
「あんまりじゃない…」
しばらく暗い目をして考え込んだあとに、覚悟を決めたようで顔を上げて俺に言った。
「分かったわ。とっとと切って頂戴!」
「ありがとう。安心してくれ、瓦礫のおかげか出血は最小限で済んでるし、痛みは一切ない。あと、ほんの数秒だけくれないか?もしかしたら回復魔法を使えるやつがいるかもしれないから、そいつなら傷口を閉ざすことも…」
俺は画面がバキバキに割れたスマホを手に取った。
きっとこの爆発で画面が割れたのだろうが、問題なく通話機能は使える。
俺はネネに電話を掛けた。
《もしもし?この爆発、小次郎?》
「そんなわけないだろ。事情を説明すると長くなるけど、そっちに回復魔法が使える大久保がいるだろ?」
《チユのことね。なんでそんなこと分かるn…まぁいいわ。急を要する用事なのね。今変わるわ。》
オリビアの方をふと見るとかなり不思議そうな顔でこちらを見ている。
《今変わったけど…何の用?》
大久保が気まずそうに答えた。そりゃそうだ。大久保とは一回も話したことないのだから。
相手は問題を起こして目立ってしまった陰キャとしか思っていないだろう。
「良かった、回復魔法使えたよな?今からそっち行くから怪我人を助けてほしい。一瞬で済むから。」
俺は電話を切って大久保のところに転移した。
「ちょちょ、どっから湧いてきたのよ」
まだスマホを耳に当てている大久保ははかなり驚いている。近くのネネたちも結構な驚きっぷりだ。
「急にごめんだけど、この国のお姫様が大変なんだ。2分で済むから。あと、しゃがんで。」
俺は大久保の手首を掴んで姿勢を低くし、オリビアのところに転移した。
「だ、誰よ?!」
「いやあんたこs…その足…もう、助かりそうにないわね。」
「あぁ、この人がこの国の第一王女のオリビア・ドラゴンハートね。この左足を切断するから、そのあとに回復魔法で傷口を塞いでほしい。」
「分かったわ。いつでも始めていいわよ!」
俺はインベントリから小刀を取り出して左足に当てた。
「行くぞ。|痛覚魔痺酔(アナステージア)!」
「|回生治癒(レストア)!」
痛覚麻痺の魔法を掛けたと同時に一瞬で左足のふくらはぎを切断し、大久保がすぐに回復魔法を掛けて傷口を塞いだ。
「終わったぞ。」
オリビアは思い切り瞑っていた目をゆっくり開けた。
「まだ魔法が効いてるからしばらくは左足の感覚がないと思うけど、そのうち左足があるような痛みがくるかもしれないから、その時はまぁ鎮痛剤でも飲んでくれ。」
「ふぅ、ちょー緊張したわ笑」
「ほんとありがとう。今帰すよ。」
俺は大久保の肩に触れて転移させた。
「あの子とは…どういう関係なのかしら?」
「実はほぼ初対面なんだよね笑 お姫様はもう大丈夫なのか?」
「えぇ。あと、オリビアでいいわよ。ほんと感謝してる。」
オリビアは静かに微笑んだ。
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