第38話 邪悪な気配

俺はエドワードに後ろに手錠をかけられてそのまま王様の元に連れられた。

「こんな手錠、意味無いことくらい分かってますよね?」

「建前だ。理解しろ。」

彼は俺に対してやけに冷たい。


少し連れられて歩いているといつの間にか部屋の扉の前まで着いた。

「エドワードか。通せ!」

こんなに厚い扉なのに王の声はこっちにまでよく響く。


「この忙しい時に、なんの用d…お前は、!|盗賊(バンディット)だな!?」

「そう腹を立てないで?お父様、!」

「すまんすまん、だってこやつあの害悪なる盗賊だぞ?」

身なりの良い少女が王様のそばに立っている。

「はいはい、そうです。私が噂の盗賊です。」


「なぁ、エドワード、あの女誰だ?」

「失敬にも程があるぞ?!この国の第一王女にして王位継承権最有力候補のオリビア・レオ・ドラゴンハート様だぞ!」

要はあの王様の長女か。


「エドワードよ、よくやった。良くぞ捉えてくれた。」

「いやいや、俺がこの城に乗り込んだんですよ。指名手配にされる前にね。」

「な、なぜそんなことがお前に分かる!まだ手配書は配っていないはずだぞ!」

「内部の情報が漏れてるんじゃないですの?」

「いいえ、違いますよ。実は自分、ユグドラシル樹上に行ってとある神と戦いましてね。勝って神律眼を片方貰ってきたんですよ。」

俺の言ったことが中々信じられないようでかなり周囲の人間は動揺している。


「王様、吉川の言うことが事実なら、この城に誰にも気付かれずに侵入したこともですが、『転移者全員より強い』と発言したことは全員の実力を完全に見極めた上で言ったことになります。」

「貴様何をほざいたと思えば、調子に乗りおって!」

「嘘は一切ついていませんよ。ついても意味ないですからねぇ。」

どうやら動揺が隠せない様子だ。


「つまりあなたは、なんでも見れてなんでも奪えるっていうことですの?それじゃまるで全知全能の神じゃないですか!?そんなの、一人間の魂が出来ることの範囲を超えてますわ!」

「そんな都合のいいもんじゃないです。まだ完全には使いこなせていないですし、いくつかちゃんと見えない部分があります。例えば、敵国のナグルファウル帝国とか。」

「なぜ見えないんだ?」

「恐らく魔王が直接的に支配しているからでしょうね。見ようとしても曇ってるみたいに全く見えないんですよ。前見ようとした時も…」

「もう1回、やってみてはくれないか?今なら何か分かるかもしれない。」

俺はダメ元で帝国を覗いて見た。


「こ、これは…」

「なんだ?!何が見えたというのだ?!」

おかしい…靄の一切が晴れている…?!

俺の実力的にまだ帝国中央の城内部までは見ることはできないが、それでもくっきり国を見渡せる。帝国の町や村には魔人族は一切いない。ところどころ魔獣がいはするが、人の気配が一切ない。注視して見たら国民全員が家に避難している…。これから何かが始まるというのか…?

「あれほど全く見えなかったはずの帝国が、今じゃ曇りなく見えています。はっきり言っておかしい。こんなの今までで一度も無かったのに…」

「あの忌まわしき魔王が死んでくれたのではないのか?!」

「それはあまりにも考えにくいです。俺の眼も通用しないほどの圧倒的で邪悪な魔力を持つ魔王が…。」


この感じ…どっかで感じたことがある気がする。一瞬で魔力が消えるような、|隠者(ハーミット)みたいな魔法よりも速く消えるあの感じは…。

転移だ。前にバーバラが目の前で初めて転移したときみたいに、一瞬で魔力が…。


「もしかして…まさか…」

「なんだ、心当たりでもあるのか??」

「まずい、今すぐ逃げてくだs」


次の瞬間大きな爆発音と邪悪な魔力ともに城が倒壊した。



「久しぶりだな。」

「魔王様が人間を見るのは数年ぶりですもんねぇ。」

黒く邪悪な気配が5つ、この国に襲い掛かる。

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