第33話 一先ず収束

「急げ!もう時間がない!」

俺の転移陣はそこまで長く描けない。全員を手っ取り早く転移させてここをでなければ…。



「もういいわ!全員解放出来たわよ!!」

80人ほどだろうか。かなりの人数の大人のエルフたちが集まった。全員小枝のようにやせ細り、女性や老人もかなりいる。みんな白い死装束を身にまとい、ほとんどの人が久々の歩行になれず上手く立てないでいる。

「よし!全員ここに集まってくれ!かなりぎゅうぎゅうになるが、我慢してくれ。」

八十人の大人がギリギリ入るくらいの大きさしか転移陣は作れていない。

「「ありがとうございます…」」 「「本当にありがとうございます…」」

エルフの人たちはみんな俺たちに感謝の言葉を述べている。中には泣いている人も少なくない。


みんなが転移陣に集まった。

「全員集まったな。転移!!」

暗い部屋の中で転移の強い光輝いた。転移完了だ。

「すごいわね、それ…。ひょっとしてそれで外に逃げられたりしないの?」

「はぁ、悪いが、もうできそうにない。」

俺はかなり息切れしている。

「さすがにあんな遠くにあの人数飛ばしてたら魔力尽きちゃったわよね…。そんな都合のいいわけないわよね。」

「いや、魔力はほぼ無限だから問題はないけど、集中で体力が持たない。」

「…は?魔力無限?意味わかんないんだけど…」

ネネは俺の一言に唖然としている。



バーバラは結界を戦斧で破壊し続け、マーガレットとアイリスがリカルドを攻撃し続けた。

「これで終わりです。|飛斬鬼灯(ナイトシェイド)。」

アイリスが残像を作るほどの高速移動でリカルドを切り裂いた。

「ぐがぁ!」

「|神斧光嶺(アックスエクレール)!」

リカルドが斬られたと同時にバーバラが子供たちの入った魔法の鉄の球体を戦斧で粉々にした。

子供たちが外に出てバーバラに抱き着いた。


「致命傷よ。大人しく誰の手下か吐いてくれたら助かるんだけど。」

「手下?馬鹿を言うなw 我々は天神様の|僕(しもべ)!お前らのような非人間族は死ぬか人間の欲を満たされれば満足だろww」

アイリスが留めの一撃を首に入れ、リカルドは息絶えた。

「なるほど。この人はどうやらマギーアデウス教の人間のようですね。」

「やはりな。予想通りだ。」

俺はマーガレットに肩を組まれて運ばれながら部屋から出た。

「やっぱり?わかってたの?」

キョトンとした顔でネネが俺を見ている。

「この王国って、だいたい俺らの世界での14世紀かそこらへんの文明だろ?その時代なら宗教と政治は切っても切れない関係だ。なんらかの国民的な宗教が絡んでいるとは予想していたよ。」

「…さすが世界史90点代常連ね。」

「90点代が常連なのは世界史だけじゃないけどな笑」


「お兄ちゃんありがとう!」

「ネネおねえちゃんのお友達なの?」

エルフの子供…。大方捕まったエルフに産ませたかどこかから連れ去ったのだろう。

「あぁ。そうだよ。君たちを助けに来た。」

「もしかして、盗賊さん?」

俺はひどく驚いた、。なんでこんな小さな子供が分かったのだろう。

「…そうだけど、なんでわかったんだい?」

「ちっちゃいときママに教えてもらったんだー!いつか盗賊さんが来てみんなを助けてくれるって!小さすぎて、ママのことはそれしか覚えてないけどね笑」

なるほど、多分この子の母親も小さいころからそうやって言われたのだろう。


「とりあえずみんな、急いでここを出ようね!今からお兄さんの前に集まってくれるかい?」

もうすっかり疲れたが、今出せる渾身の集中力を使って転移陣を描いた。

「転移!!」

もうあいつの結界はないから全員を転移できた。

「すごい汗かいてるわよ…?」

「そりゃそうだろ、。一夜漬けしたあとにトライアスロン5回した気分だ。」

「とらいあすろん?」

ネネと俺以外のみんなはよくわかっていないようだ。



「そう言えばネネ、紹介するの忘れてたな。」

ネネの肩を組んでいた腕を外してみんなの側に立った。

「さっきの子供たちみたいに耳が尖ったのがマーガレット。エルフでメインスキルこそないけど結構強いよ。」

「スキルがないのにどうやって戦ってるの??」

「古式魔法です!」

「ヨトゥンヘイムに伝わるスキルを使わない古来の魔法だよ。俺も使える。」

「…いろいろ学んだようね。」


「んで、この長身の赤毛がバーバラね。半巨人族でパワーも魔法耐性も人間以上。転移は俺より上手いから機動力もえげつないよ。」

「まぁね!自慢じゃないけど!笑」

忘れてたけど、バーバラはツンデレだったな。こいついつからか丸くなったな。

「すごいわね、。」

「そして…この人が、」

「初めまして。小次郎さんの守護者のアイリスです。この二人とは違って私は純粋な人間族です。」

「小次郎、なにしたのよ。」

「俺も分かんないよ、。なぜかあってからもうずっと守護者を名乗ってるんだ。」

ネネは大きなため息を吐いた。


「守護者ってことは、アイリスのスキルは|守護者(ガーディアン)なの?」

「…わかりません。」

「分からない?自分のスキルが分からないのか??」

「覚えていないんです。目覚めてからずっと記憶が曖昧で…。」

どうやら本当のようだ。ずっと魔法は簡単なものしか使ってない。

魔法は魔力を考えなければ解釈次第で無限に強くなれる可能性がある。だがその解釈も記憶がなければ使い物にならない可能性がある。

だが、体術に関しては体で覚えているのだろう。元から持ってた剣術はかなりの腕前だ。


「なるほど、まぁとりあえずこの指輪を着けてみろ。これを外したら俺は君たちの言語じゃ会話できなくなるけどな。」

俺はロータスリングを外してアイリスに渡した。

「これは…」

アイリスが小声でつぶやいた。何かを思い出したのだろうか。

彼女が指輪をはめてスキルを表示した。表示の仕方が分かっているようだが、それも忘れてしまった記憶が関係あるのかもしれない。


《名前》アイリス・アドラー

《メインスキル》|襲撃者(マローダー)

《レベル》2080《バイタル》超身体強化状態

《魔力残量》90%《魔力指数》16200


「すごいわね、。」

アイリスは指輪をすぐ返してくれた。

「|襲撃者(マローダー)なんて聞いたことないわよ、」

「マローダー…。襲撃者の他に、略奪者の意味もある。」

「それに魔力残量は置いといて、レベルと魔力指数は桁違いね…」

「レベルはちょっと負けてるけど、魔力指数は俺の方が高いぞ?三倍くらい?」

「…あんたほんと強くなりすぎよ笑」

ネネがあきれたように俺に言った。安心してるようでこっちもほっとした。

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