第32話 盗賊合流

ネネは今、|結界師(バリアマスター)のリカルドの結界内で圧倒的に不利な戦況だ。彼に周囲の空気を消されたせいで呼吸が一切できない。

もう30秒も持たない。意識が遠のいていく。


(もうダメ…死んじゃう……)

「随分苦しそうじゃないかww そのまま死ね!」



激しい音と共に地面に魔法陣が描かれた。

「なんだこれは!?貴様、何をした!」

(こ、小次郎…良かった…)

ネネは静かに笑った。


土煙が晴れて重装備をした小次郎、マーガレット、バーバラ、アイリスの4人が転移した。

「ここはどこ?王国にこんな森あるの?」

「時差が多少あるにしても夜中のはずですよね…あの太陽は…」

「ここはきっと例の地下室だ。それよりバーバラ、あそこで浮遊してるネネを助けてくれ。」

「分かったわ!」

バーバラはネネのところで転移して戦斧真空を切り裂いた。稲妻が走って真空が解かれ、ネネは呼吸をすることが出来た。

真空が解かれたと同時にネネの風魔法もバーバラによって解かれてしまい、そのままネネが落ちてきた。俺は落ちてくるネネを受け止めて回復魔法をかけた。

「ハァ、ハァ…。ありがとう。」

「こっちこそ、頼んだことをやってくれて感謝するよ。この半年でだいぶ強くなったな。」

「それはあなたでしょ?笑 魔力感知が苦手な私でも分かるわ。」

「今はそれより、ゆっくり休め。あとは俺たちに任せてくれ。」


「すごい稲妻ですね、そんな魔法使えたんですか?」

「これは彼女の魔法ではなく真空空間を切り裂いたことによる相乗効果です。」

「アイリス、すごい観察眼ね。たぶんその通りよ。」


「てめえら、また侵入者だな?どうやって入ってきやがった!」

「失礼だけど、黙ってもらえないか?今状況を整理してる。」

俺はすぐに神律眼で状況を確認した。こいつのスキルによる森の結界魔法とその詳細、金属の魔法の塊の中にいる怯えたエルフの子供たち、そしてこの部屋の奥にあるもっとドス黒い何か。


「バーバラ、アイリス、2人はあいつをぶっ殺してくれ。殺したらすぐにあそこの金属の魔法を解いて中にいる子供たちを出してやってくれ。マーガレットはネネに回復魔法をかけ続けてくれ。もしかしたら低酸素症になっているかもしれない。俺は奥の部屋に何があるか探る。この結界が邪魔であんまり見えないけど嫌な予感がするんだ。」

バーバラとアイリスとマーガレットの3人は俺の方を向いて頷いた。

「もう大丈夫よ。私も小次郎と一緒に行くわ。」

ネネが起き上がって言った。

「ダメですよ、まだ安静にしていないと…」

「ありがとうマーガレット?さん。でも大丈夫よ。」

「…分かった。はやく行こう。マーガレット、バーバラたち2人と一緒にこいつぶっ殺してくれるか?」

「えぇ、もちろん!」



俺とネネは奥の部屋に進み、バーバラとアイリスとマーガレットはリカルドとの戦闘を始めた。

「おい行かせると思うのかァ?!ふざけやがってどいつもこいつも…」

「アイリス、どういう魔法か分かったりする?」

「えぇ。おそらくここはこいつのスキルによる結界魔法です。この結界の中はこいつの支配下にあって結果内のものなら魂以外全て操作可能なのでしょう。」

「それなら、バーバラさんの戦斧で結界を壊し続けましょう。きっと内部からの破壊には強いらでしょうから、再構築し続けられるように作られてるはずです。」

「分かったわ。片っ端から壊し続けるから2人は攻撃を。」

「黙れ黙れ黙れ!全員まとめてぶっ殺してやる!天神様の加護を受けたこの結界の中じゃ、お前たちなんて無力なんだよ!!」

「神の力なら、私も持ってるわよ?」

バーバラは早速森の端に転移して戦斧で結界を壊し続けた。


「アイリスさん!私は遠距離攻撃の援護と防御をするので、あなたは好きなだけ暴れちゃってください!」

「ありがとうございます。そうさせていただきます。|超身体強化(エンハンス)!」

アイリスが身体強化魔法を自分にかけてリカルドに突っ込んで行った。

「舐めるな!」

リカルドが手をアイリスの方に向けて地面の岩盤ごと操って攻撃を仕掛ける。しかし途中で迫ってくる岩盤の動きが止まって一切動かない。

「これは…あの長身の女か…。クソガキはこれだから…!」

「今のうちに神に祈って死になさい。」



「さ、ネネ。3人に任せて行こう。」

「えぇ。」

俺たちは結界の奥の部屋に転移して入った。

「その瞬間移動みたいなのなに?」

「ま、色々あってさ。今じゃ魔力はほぼ無限だ。」

中の部屋は真っ暗だ。俺は簡単な炎魔法で明るくした。


「これは…」

「酷い…あまりにも酷すぎるわ…」

衝撃の光景に2人とも言葉を失った。

何十人もの大人のエルフたちが顔を覆われ、仰向けに拘束された状態で魔力を吸い取られ続けている。全員手の脈に管が繋がれていて、おそらくここから最低限の栄養が送られていると思われ。

「五感を奪い拘束して永遠と魔力を吸い取り続ける…。この国の富裕層の家はどこも無尽蔵に灯りがついてるのはおかしいと思ったよ。」

「この人たちの魔力はじゃあ…貴族たちの電力になってるってこと…?」

「恐らくここの魔力を雷魔法に変換して各貴族の家庭に電力を流してる。あいつらにとっちゃ、都合の良すぎるエネルギー源だ…。」


俺は拘束されたエルフの一人に掛かっているすべての拘束具を解いた。

「…君は誰だ?」

歳は40代後半くらいだろうか。かなりやせ細っていいる。

「助けに来た者です。」

「ほ、本当ですか、?も、もう何年も魔力をす、吸い取られつ、続けているのに…」

彼は静かに涙を流した。

「すみません…き、希望なんて当の昔にす、す、捨てていたので…。上手くしゃべる方法もわ、忘れていたので…」

俺はインベントリから小さなナイフ数十本ほど取り出して床に置いた。そしてそのうちの一本を彼に渡した。

「このナイフで他の人の拘束を解いて事情を軽く説明してあげてください。解いた人はその都度この床にあるナイフを取らせて他の人の拘束を解いてください。」

「なるほどね。よくこんなに小刀を取り寄せられたわね。」

「ネネも協力を頼む。俺はここで転移陣を描いてるから全員解放出来たらここに集まってくれ。」

これだけの人数を一度に転移させるのはかなり難しいが、一気に転移させられるように全力で集中をする。目的地はヨトゥンヘイムの結界の前だ。そこまで行ければあとはエルフの里がかくまってくれるだろう。


「本当に…ありがとうございます…!!」

彼は大粒の涙をながした。

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