第29話 クラスメイトはまだ訓練中
ネネたち転移者たちの多くはここ半年間、王国三銃士エドワードの元で兵として戦いつつ訓練を受けていた。
彼らは武功を上げ、次第に王国では精鋭部隊"ウォリアーズ"として知られるようになった。
転移者たちは戦闘を行う時はチームで動くが、普段は7班に分かれて訓練をしていた。班の教師はエドワード以外はウォリアーズではないが国でも名の知れた兵士ばかりだ。
何人か城を出た関係で、班の構成が変わった。
特にウォリアーズのリーダーで三銃士エドワードは澄田寧々、藤原力也、平木真守、岸田玲央の5人班で訓練し、チームでは最も強い班である。
今日も普段と同じように広場で生徒全員集まって、班になって訓練を始めた。
「ネネ、また強くなっただろ」
「まーね!力也にはまだまだ叶わないけど」
「悔しいぜ…今度俺と戦ってくれよ!」
「レオ、あんたはそればっかりね笑 」
「一通り訓練が終わったら、4人全員で戦ってみようか。」
「さすがエドさん!ありがたみが深すぎるぜ!」
黄瀬と同じ|奇術師(トリックスター)のカルロス・スモーカーは黄瀬の他に八雲颯太、|暗殺者(アサシン)の|影山武(かげやまたける)、|弓撃師(アーチャー)の|内海徹(うつみとおる)の4人の班を担当している。長い刀を背負った中年の喫煙者だ。
「またこんな朝から葉巻吸ってるんすか?」
「当たり前だ。そういう能力なんでな。」
「悠里、お前はこんな髭面ヘビースモーカーにはなるなよ?」
「分かってるよ!颯太こそ気を付けろよ?ゴルゴ13も次元大介も喫煙者だからな笑」
颯太は黄瀬とすっかり仲良くなっている。
「さ、ガキは黙って訓練の時間だ。昨日学んだことを踏まえて技を出しな。」
「空間軸騙奇術(アクシスドロー)!王国兵士!」
黄瀬は王国の兵士を遠くに描いた。
「相変わらず、お前の魔法はどうなってんだか。俺たち普通の|奇術師(トリックスター)スキル保持者の多くは、俺の葉巻の煙みたいになにかを通して描くっていうのに…」
「簡単だよ、空間を媒介にして描いてるだけさ」
「それが分からねえってんだよ。誰でも真似できると思うな?」
黄瀬が作った幻影の兵士たちを的に内海徹と八雲楓太が遠距離から撃ち抜く。二人の攻撃が飛び交うところに影山が|隠者(ハーミット)で姿を隠しながら、弾道を避けつつ幻影の兵士を倒す。
「お前も|隠者(ハーミット)使えるなんてな!」
「|隠者(ハーミット)は割と多くのスキルで使える魔法だ。俺でも使える。魔法は自分の体内で完結するものなら難易度は低い。」
カルロスが無口な影山の代わりに丁寧に解説をした。
「でも俺、他のやつにも|隠者(ハーミット)使えるよ?やったことあるし」
「…お前はほんと異才だよ」
カルロスの空いてる口が塞がらない。
「はい。今日はここまでだ。みんな結構やられあったな。かなり成長しているぞ。」
「特にネネと力也だよなぁ。ほんと半年ですごい強くなってやがる笑 今度は勝つから期待しとけよ?」
「岸田くん、君もだよ。もちろん平木くんもな。みんな速く大久保さんたち後方支援の班のところに行って回復魔法をかけてもらいなさい。」
5人は大久保千結たちの班のところに行った。
千結の班は後方支援の魔法スキルを持つ転移者で構成されている。
講師は千結と|回復師(ヒーラー)で熟練の魔法使いのカリーナ・メイデイだ。千結の他に|瞳術師(メイロック)の|目黒瑠美(めぐろるみ)、|薬医師(ドラギスト)の|楠木理恵(くすのきりえ)、|強化師(エンハンサー)の|馬島文子(ばじまふみこ)、|結界師(バリアマスター)の|隔山結(かくやまゆい)の4人がいる。
「あんたたち、またそんな怪我したの?」
「ごめーん、チユお願い!」
「あんたたちの班、クラスの中じゃ最強なのになんでそんなおっきい怪我すんのよ、。」
「そりゃ最強の班だからでしょ笑 私の|薬医師(ドラギスト)で一緒に治そ?」
「理恵がそう言うなら、。」
「|透視線瞳術(シャドウゲイズ)!」
目黒が|瞳術師(メイロック)スキルで藤原たちの体の見えない負傷を透視した。
「力也は左足打撲、ネネは右足首打撲だけど、真守と玲央はあばらと腕を骨折してるわ。」
「あなたの透視は本当にすごいわねぇ。どうやっているんだっけ?」
「たぶんX線ですよ。」
「あぁ、そうだったわねぇ」
カリーナがいつもの優しそうに言った。
「私はもう引退した身だけど、あなたたちのような未来ある若者を育てられてよかったわ。」
カリーナがエドワードに寄って話しかけた。
「そろそろ話しておくべきじゃないかしら?マギーアデウス教の…」
「世界魔法均衡論のことですか。確かに魔法の核心のことではありますし、教えるべきですね。特に彼には。」
そう言ってエドワードはクラスの全員を一旦一箇所に集めた。
「わざわざ訓練を中断させてすまない。君たちに教えておくことがある。座学の時間だよ。」
クラス全員がザワついている。
「この国では大昔からマギーアデウス教という宗教を国教として定めている。そもそも、この世界では非人間族の住むヨトゥンヘイム、人間族の住むヴァルデンシア王国、魔人族の住むニヴルリンボ帝国の三国の中央に位置する世界樹ユグドラシルの頂上に神々が住んでいる。」
急にスケールの大きな話をされてクラスみんな固唾を飲んだ。
「最高神オーディーンが愛した女神との間に双子の兄弟を誕生させた。そのうちの1人天神べヴィリーが我々人間を作り、もう1人の魔神バルドルが魔人族を作った。天神べヴィリーを信仰するのがマギーアデウス教だ。」
「世界史の授業ですか?」
「藤原くん、最後まで聞いてくれ。その宗教は世界魔法均衡論を唱え続けている。簡単に言えば魔法スキルは全て天神が授けていて、世界の均衡と秩序を保つようになっているというものだよ。例えば平木くんの|守護者(ガーディアン)は何かを守るという使命を持って授かったとされている。岸田くんの|騎士(ナイト)は人間以外や邪悪な人間を攻めるためという使命で授かっているとされている。」
「それが…どうしたんですか?」
「問題はクラスの2人のスキルだ。まず力也くんの|勇者(ブレイブ)スキル。このスキルは魔王を倒すために授かるとされている。そしてその相対する|魔王(デーモンロード)スキルは魔神バルドルの化身とも言われるスキルで、この2人は戦う運命にあると言われ、勝った方がその後の時代を左右する。」
「…つまり、僕が勝たないとそのあと魔人の時代になる。相手も当然俺を殺しにかかるんですね。」
「力也、とんでもないのに巻き込まれたな…」
「てことは、俺がいるってことは既に|魔王(デーモンロード)スキル保持者はもういるってことですね」
「あぁ。君たちがくる少し前にヤツが現れて戦争が起きた。何百人も死者が出て、こちらに|勇者(ブレイブ)がいないことを確認して撤退した。いいようにやられたよ。」
既に戦争は始まっていたと急に言われてその場の全員にかなりの衝撃が走った。
「もう1つのスキルの話は…何です?」
「みんな察しの通り、吉川くんの|盗賊(バンディット)スキルのことだ。このスキルは転移者にのみ現れるとされて混沌を産むと言われている。転移者にのみ現れるということは、神のご意志に反すると言われて教会では忌み嫌われる。長年王が転移者を転移させなかったのはこれを恐れてのことでもある。」
「そんな…」
ネネが小声で呟いたのを横目で力也が見ていた。力也はかなり心配している。
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