第25話 感動の再会

マーガレットは敵のエリザベスを決死の覚悟で倒したとき、俺は洞窟の奥の奥へずっと進んでいった。

「徐々にこの眼にも慣れてきたな。」

次第に結界で隔たれた先も洞窟外の遠くの景色も集中すれば見れるようになった。

転移魔法は自分の見たことのあるところか、見ている範囲までしか転移できない。

「転移!」

次の敵のところへ転移した。正直、今の俺なら勝てない奴なんていない。それに、一度バーバラを助けて彼女を背負って洞窟を抜け出し、倒れたマーガレットを拾うよりも敵を瞬殺してバーバラを助け出した方がずっとはやい。


敵の目の前に転移した。

「ようクズ野郎。悪いが死んでもらう。」

「あなたは…吉川小次郎さんですね?予定よりずっと早いですね。」

相手は目を細めて俺を見た。

「私の名前はイーサン・ワトソンです。お会いできて光栄です。」

ゼラや塚田先生よりずっとしっかりした大人な感じがしている。


「それで、私のことを殺すというのは…本当のようですね。」

「あぁ、もちろんだ。手っ取り早く済ませたいんだが…」

「いや、私は戦わないで構いません。よろしければ、結界も解きましょうか?」

俺は当然のように彼の言動を怪しんだ。

「どういうことだ?なんのつもりだ?」

「私がムーニーさんの元にいるのは仕事だからです。彼のもとで働くのは、どこよりも給料がもらえるからというだけですから、死ぬと分かっているのなら戦うことは意味がないです。」

「そりゃ、死んだら金貰っても意味ないからな…」

どうやら彼は嘘はついていないように見える。たしかにこの世で最も稼げる家柄にとらわれない民間の職業といえば兵士だろうが、人間の王国では間違いなく働くことはできない。ヨトゥンヘイムで働くのであればゼラの精鋭部隊で働くことが一番だろう。まあ、大方強い兵士が欲しかったゼラが実質的に買い取ったのだろう。

「そういうことです。私は絶滅した吸血鬼一族の末柄なので、こんなところで死ぬわけにはいかないのです。では、結界も解きましょうか?」

「いや、結界を解く術は持っている。」

「そうですか。では、私はここで待っています。ここは陽が当たらないので。」


俺はイーサンを背に、戦斧で結界を切って瞬時にバーバラのもとに転移した。






傷ついたバーバラが前で気を失っている。手と足には杭が刺されて洞窟の壁に直接打ち込まれている。魔力も生命力もほとんど感じない。

「バーバラ、今来たぞ!大丈夫か?」

「…小次郎?本当に?」

バーバラが静かに目を開けた。

「あぁ、俺だ。もう大丈夫だよ。|痛覚魔痺酔(アナステージア)!」

彼女の手足に麻酔の魔法をかけて静かに手足の4本の杭を抜いた。

杭を抜いたが力が入らないようで、俺のところに抱き着いてきた。

「さぁ、帰ろう。」

「こじろう…私、来ないと思ってた。本当に怖かった…。」

大粒の涙を流して俺にせがんだ。こんなバーバラは見たことがない。

「俺は絶対にお前を見捨てないよ。安心して。実は片腕を失ったから、もしかしたら支えづらいかもしれない。|回生治癒(レストア)!」

俺は見様見真似でマーガレットの回復魔法を使った。バーバラの手足の杭のあとはもう元通りだ。


「これはこれは、吉川さん。私の拷問の邪魔をしないでいただきたいのですか。」

奥からゼラが不気味に近寄ってきた。

「黙れドブカス野郎。今殺してやってもいいんだぞ。俺の怒りが抑えられているうちに逃げるんだな。」

「神律眼に、スキルの二刀流と、実質的に尽きることのない魔力。これまた随分強くなったんですね。でも、隻腕でヴァレンティノのおかげで魔力出力も制限されているあなたに私に叶うわけがないでしょう?笑」

「俺を…舐めるなよ。」

「もういい。子供の戯言にはもううんざりだ。手っ取り早く、終わらせて差し上げよう。|死神の息吹(ディシーズブレス)!」

ゼラが衝撃波のような魔法を出した。俺も見たことがない魔法だ。衝撃波にあたった小石や抜いた杭が塵になって消えている。

俺は真っ先にバーバラの前に立って防御魔法で防いだが、防ぎきれずくらってしまった。

「があぁぁぁっ!」

皮膚が焼けるように痛い。バーバラは無事だが、正直俺はほぼ致命傷だ。俺はその場に倒れこんだ。


「もう終わりです。最初からこうすべきだった…。」

本当に終わりなのかもしれない。俺は身動きが取れないし、魔力も込められない。



絶望だ。こんなところで…ここまで来たのに…



「|絶対王者の審判(ホープレスネス)。」

聞いたことある声とともに、俺に近寄ってきたゼラを吹っ飛ばして壁に飛ばされた。壁に飛ばされたゼラはそのまま剣が心臓に突き刺さった。剣がどこから来たのか、この眼でも全く見えなかった。

「ぐっ…あなたは…」

「遅くなったね。小次郎くん。」

「王様…ほんと、遅すぎますよ笑 そのせいで俺死んじゃうんですもん笑」

「僕は巨人王だよ?笑 安心しな。」

王様が俺に手をかざすと、ゼラやヴァレンティノにかけられた魔法も切った片腕も元通りになった。

「…チートかよ笑」

「無視は良くないですね。愚かな王様、今本気であなたと殺し合いましょうか!!死ね!」

ゼラが起き上がって王様に攻撃魔法を放つために手を向けた。

「させません。」

剣を持った女の子が現れてゼラの両手を切り落とした。

ムーニー家に地下室で巨人たちが封印されていた時に奥で一緒に封印されていた女の子だ。

「あぁぁぁ!!」

ゼラの叫び声が響いた。

「許さないぞクソガキがぁ!」

キレたゼラの喉を女の子は切り裂いた。信じられない。あのゼラを、一瞬で…


「なんだか昔を思い出すなぁ!笑 そういえばお前、純粋な人間族じゃあいつの次に強かったよな笑」

久しぶりに会った親友のようなテンションで王様は話した。彼女はいったい何者なんだ…

「小次郎さん…あなたが|盗賊(バンディット)の後継者ですね、」

「あぁ、確かに俺は盗賊だが…あなたは一体、何者なんだ?」

彼女は急に目の前で跪いた。

「私はアイリス・アドラー。あなたの守護者です。」

「…は?」

「彼女はある男と約束していてね。それより、バーバラくんを運ぼうか。回復は終わったが、目を覚まさない。」

「あぁ、そうですね。分かりましt…」

俺は疲労で気絶してしまった。


「起こしますか?」

「いや、彼も疲れてるんだ。運んでやろう。」

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