第24話 大切な人

正直言って、現状マーガレットがかなり不利だ。


相手のエリザベスはスキルこそないものの強力な背中の針を使った遠距離攻撃と防御、近接戦闘が可能。針は抜けても抜いた髪の毛を1本生やすのと同じように回復魔法ですぐに生やすことが出来る。

魔法でなく物理攻撃がメインのため、さっきのアルフォース戦で使った闇魔法と光魔法の|魂纏結界(てんこんけっかい)は無意味だ。


「物理攻撃…なら私も!」

「あら、いいじゃない。でもその前に、えいっ!」

エリザベスはマーガレットの針の傷を指さした。その瞬間、電撃のような痛みが体の内側から直接流れているのを感じた。

「があぁぁぁぁ!」

マーガレットの痛々しい叫び声が洞窟に響いた。

「|臘月(ろうげつ)!|光浄清聖喰(ピュリファイカニバル)!」

闇魔法で自分の体内の雷魔法を吸収して痛みを抑えた。

「とりあえず…」

さっき針の雨を凌ぐために作った、針だらけの|常盤岩威(トキワギ)の岩の壁を闇魔法で取っておいた。


「私の針は両側が鋭くとがっていて電気を通しやすい性質を持っているの。つまりそんな槍なんかよりずっと強いわ」

「この槍は…大事な人から譲り受けたものなんです、!あなたの針もご両親からもらった大事なものかもしれませんが、ここは負けるわけにはいかないんです!!」

「大事な両親ね…。あいつらのことなんて、大事に思ったことなんて一回もないわ!」

彼女が始めて感情的になったような気がした。


「死になさい!」「あなたこそ!!」

二人は二本の針と槍で襲いにかかった。両者譲らない体術戦が始まった。

「魂纏結界!|闇光孔鏡引斥(クレーターリバーサル)!」

敵の雷魔法の針はかすってもダメージが大きいため、雷魔法のみを防御するためだけに魂纏結界を張る。

相手のエリザベスの方が機動力は高く、槍で大きく振りかぶった時にかなり隙ができてそこを針で突かれてしまう。

「来ると思いましたよ!|焦炎之樋(スパークエッジ)!」

足に炎魔法を纏って懐に襲い掛かってきたエリザベスの顔面を蹴った。

エリザベスはマーガレットの蹴りをギリギリで避けて後ろにバク転をして退いた。バク転の回転で背中をマーガレットに向けたときに背中の針を全て飛ばしてきた。槍を大きく振りかぶったのと蹴り上げた態勢が素早く動くのに適していないのと、最初の時より範囲が絞れれている分、マーガレットはほぼ全て食らってしまった。

「がぁぁぁぁ!!」

針を抜き、回復魔法と光魔法の浄化で急いで治したものの、魔力をかなり失ってしまった。


無数の針の雷魔法を光魔法で浄化して無効化したとき、ほんの少しだけエリザベスの幼少期の記憶の断片が見えた。

エリザベスとその妹と思われる同じ髪色と目の色の少女の二人が涙を流して笑いながら別れる様子。奴隷の紋章と傷だらけになった犬?の獣人の妹の姿。幸せそうに見えてそう思えない、エリザベスの魂に強く刻まれた数秒の記憶。


「…浄化するとき、光魔法であなたの針からほんの少しだけあなたの記憶の断片が見えました。もしかして、妹さんのために指名手配になって人間たちから追われたのではないですか?」

マーガレットは息切れしながら、恐る恐るエリザベスに聞いてみた。

「…そうよ。私は父が人間の低級の貴族、母がハムスターのネズミ獣人だったけど、双子の妹は隔世遺伝で狼の獣人だったわ。先祖に違う動物の獣人がいる場合、ごく稀に起きるのよ。おかげで周りからずっと”呪いの魔犬”と言われ続けてたの。母とは違う恐ろしい見た目の妹は両親からひどい虐待をされてきていた。ペットとして可愛いから母と結婚して子供を産んだから、私と母は暴力はされなかった…。でも、獣人や魚人は種族の中でもその動物の一族に誇りを持っているから母は守ってくれなかったどころか、父以上に虐待をしていたわ。」

「妹を守るために…」

「ある日、商売が少しうまくいかなかった父はひどく妹にあたってきて妹の顔があざだらけで体もボロボロだったのを見て、私はついに堪忍袋の緒が切れた。自分の針を父に何本も何回もさし続けて殺した。貴族を殺した私は国から追われることになって、妹にヨトゥンヘイムに逃げようと誘った。でも妹は、父が殺されておかしくなった母がいると言って直前で別れた…。今でもあの別れた時の記憶が忘れられなくて、毎晩夢に出てきたりフラッシュバックしてきてた。」

「それじゃ、今妹さんは…」

「きっと人間の王国で差別と迫害を受けながら必死に生きてるはず。でも、必ずこっちに来るって約束してるから、それまで私はヨトゥンヘイムで妹も守れるくらい強くなるって決めたの。ゼラはいけ好かないやつだけど、あいつは私を仕事で王国には関わらせないと約束してくれたし、彼についていけば私や妹のような半獣人にとって良い世界になる。」

「そんなわけがないでしょ!」

「何を話しても無駄なようね!あなたに私の気持ちなんて、分かるわけないでしょ!!」

いよいよお互い本気になったようだ。


「もういい!!終わりしてやるわ!!」

「上等です!!」

2人の大きな声が冷たい洞窟に響き渡る。

「今出せる、最高最大を!この1本に!|泰山雷鳴動(ストーミースライド)!」

エリザベスは持っている1本の針にありったけの魔力で雷魔法を込めて放つ。

「だったら…!|大風光天陽(ドラウトカーム)!」

マーガレットは雷魔法と相性のいい風魔法と光魔法の融合魔法を込めて放つ。

2人の魔法が放った魔法がぶつかり合い、互いに拮抗している。だが、くしくもマーガレットの魔法が弾かれて右肩を貫いた。


「きゃぁぁぁ!!」

マーガレットの叫び声が鳴り響いた。

「おしまいよ。動けなくなってじわじわと体力と魔力を失って最後には死ぬわ。」

「それはどうでしょうか…。見てみてください?」

マーガレットが下を指さしてエリザベスは地面を向いた。地面にはマーガレットの闇魔法が施されていた。2人の魔法がぶつかり合った時、マーガレットが残りの魔力で仕掛けていたようだ。

「これは…?!」

「…|常盤岩威(トキワギ)!」

エリザベスの背後から闇魔法で取り出したたくさんの針が刺さった岩壁が勢いよく飛び出してきた。

「がぁぁぁぁぁあ!」

エリザベスの背中にたくさんの針が刺さった。

自分の背中に元から刺さっていた針と岩壁の針が刺さり続ける。足元にはエリザベスの血で水溜まりができている。


「ハリネズミのジレンマ…。自分の身勝手が自分を追い詰めたんですよ笑」

「…あんた、やるわね笑 おかけで動けないどころか死ぬわよ。まぁそれは、あんたも同じことね。」

「いや、私はここを出て、必ず小次郎さんの元に戻ります。絶対に。」

自信に満ちたマーガレットの言葉に思わずエリザベスは戸惑ってしまった。

「あんたを信じて、頼みがあるわ。ここを生きて出たら、私の妹をお願いしたい。マーシャ・ゾットよ。頼りないけど誰よりも優しい子なの。」

「分かりました、。約束しまs…」

2人は気を失ってしまった。

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