第14話 互いの作戦

「相手は番神ヘイムダルですよ!?それに目を取ったりしたら能力を失って他の神々の怒りを買います!」

マーガレットが結構きつく言われた。


「自分がとるのは片目です。|神律眼(しんりつがん)はこの世で最もすぐれた魔眼ですし、片目でも十分に機能します。」

「だいたいなぜそうするんですか?」

「離れてしまった王様と合流してバーバラを救い出せます。あの眼さえあれば勝機はあります。俺のスキル|盗賊(バンディット)は盗む対象を認識することで発動できるので、認識さえすれば魔力があればどんなものでも盗むことができます。」


「…なるほど、理解はできました。」

二人の老夫婦は少し黙り込んでしまった。


「小次郎さん、あなたはエルフの昔話のエーデルワイス物語を知っていますか?」

黙り込んだべラルゴさんが急に口を開けた。


「いえ、聞いたことありません。」

「エーデルワイスというエルフの女の子が盗賊と一緒に神の力を借りて世界を変えるお話です。あまり知られていないですが、この話は実話なんです。」

「そ、そうなんですか??!」

マーガレットはかなり驚いている様子だ。


老夫婦たちは説明してくれた。

「ゆえにエルフの間では|盗賊(バンディット)スキルを持つあなたもそこまで嫌悪しません。そして、我々一族はいつか来る盗賊に協力して神聖樹への入り口を通らせると伝えられてきました。そのために何百年もここを守ってきたのです。」

「なんの因果でしょうか、最初にここに来たときは少し驚きましたよ。」


「そうだったんですね…。」

ヨトゥンヘイムに来た時に結界を通れたのも、もしかしたらそれが要因だったのか。

「小次郎さん、お願いします。ヘイムダルに挑んで息子を救ってください。」

「えぇ。約束します。」



俺たちは屋敷の地下に入り、ユグドラシルの樹上に向かうための転移陣の前に立った。


「私も行きたいです!行かせてください!」

マーガレットが唐突に名乗りを上げた。

「それはできないよ、君は確かに強いし行かせたいけどこれは小次郎さんしか転移できないんだ」


「わ、わたしエーデルワイスの子孫なんです!!」

突然のカミングアウトにその場のみんなが驚いた。


「最初はあんなに勇敢な女の子が私の先祖だなんて信じられなかったけど、今ならわかります!小次郎さんの力になりたいんです!!」

「…ありがとうマーガレット。とてもうれしいけど、この転移陣はたぶん魔法陣に乗った人を魔法解析して選んでるんだと思うから、|盗賊(バンディット)スキル保持者の俺じゃないと転移できないんだ。でも、片目を盗んだらすぐにここにきて君とバーバラを救うよ。」

「わかりました、ここで待ってます!」


俺は魔法陣の乗ってマーガレットの方を見た。

「じゃあまた会おう。それまであの世で待ってるよ笑」

上に向かって指をさした。深刻そうなマーガレットの顔が少し和んだ。

「いってらっしゃいませ、!」


「最上位空間転移、発動!」

べラルゴさんの声とともに俺は転移した。



一方そのころバーバラはヨトゥンヘイムのとある洞窟でゼラ・ムーニー囚われていた。

「ようやく目を覚ましましたか、バーバラさん」

バーバラは動こうとしたが激しい痛みが手足に響いた。

「動かない方がいいですよ? 手足を壁に直接磔しているのでね」

「イカれてる…なにが目的よ」

「国家転覆…でしょうかね。このヨトゥンヘイムを丸ごと乗っ取って人間族と魔人族に戦争を仕掛けます。まぁ、まずは人間族の住むヴァルデンシア王国でしょうね!笑」

ゼラは少し笑みを浮かべた。


「笑っていられるのも今のうちよ。戦った時最後に投げた剣にメッセージを残したわ。正確に城の窓を割って今頃あの王様と小次郎が私を救いに行ってるはずよ。」

「えぇ存じていますよ。砂漠に罠を張って全員離れ離れになっているでしょうね。まぁ王様だけは封印に成功していますがね。」


「どうして…なんでそんなことするのよ…。」

「どうして?愚問ですね。あなたには外の世界が分からないでしょうが、私は王国で生まれて酷い迫害を受けてきました。半分人間だと、エルフの世界でも人間の世界でもあまりに生きづらいのです。これは復讐であり、世直しなのです。そのために私がどれだけ用意していたか」


「…舞踏会でたまたま私の両親にあって私に戦闘を教えたのも、王に取り入って武功で高い地位に就いたのも、自分だけの独立した隊を作ったのもこのためなんですか」

「その通りです!笑 あの兵隊はとても優秀で私の復讐のためだけに作ったものです。本来ならあなたもあそこに入れたかったのですがね。砂漠での戦闘は、入隊試験でもあったんですよ?笑 結果は考えも力量も大きく不足してます笑笑」


バーバラの中の裏切りによる悲しみは怒りへと変わった。


「私は、あなたが好きだったのに!愛してたのに!私の家族や何万人もの命を殺そうなんて!!」

「そうですか!笑 本当に滑稽ですねぇ 長い時間を一緒に過ごしておいてなにも私のことを理解していなかった!!笑笑」


許さない。絶対にぶっ殺してやるわ。

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