第13話 エルフの里

「言い忘れてましたね。私はマーガレット・アルテミラです。私の死んだ友人にあまりにも似ていたもので…」

結構おどろおどろしいタイプの子なんだな、。

「いえいえ。俺の名前は吉川小次郎。とりあえず小次郎で大丈夫だよ。」


「…まだか?体中しびれてしかたないよ」

「着きました、ここが家です!」

玄関の前についたがかなり大きい。

「でかいな…学校みたいだ」

「えぇ。孤児院です。私たち、孤児院で育って今もここで働いてるんです!」

「というと、アッシュって人もそうなのかな…?」

「えぇ、その通りです。アッシュは私の大切な恋人でした。私を初めて愛してくれたんです。」

「へぇ。初恋だったんだな、。」

だんだん傷の毒が痛んできたようだ。


ドアを開けて入るとたくさんの子供たちがで出迎えてくれた。

「おねぇちゃんおかえり!!」

「マザー!おねぇちゃんが男ひっかけて帰ってきたよー!」

「こらこらトーマス!これは違いますよ!」

奥からタバコを片手にマザーと呼ばれる女性のエルフが現れた。


「これは驚いた、本当にアッシュの小僧に似てるんだねぇ」

「…こどもの前で喫煙ですか」

「失礼なガキだねぇ!これは禁煙パイポだよ!煙も100%水蒸気さ!」

吐く副流煙には少し香りがついている。


「とりあえず奥の医務室にきな!とっととその毒治しちまうよ!!」

「ありがとうございます!」

俺はマザーとマーガレットの三人で奥の医務室に連れられた。


「おそらく神経毒の類だね。毒系の魔法ではなく植物由来の自然毒素だね。たぶんこれで治るはずだよ!」

液体の薬を傷口に一滴たらすと、毒が染みて紫に変色した血管がみるみる治っていった。さらに傷口まで一瞬で治ってしまった。


「ありがとうございます。」

「まず事情を話してもらおうかい!」

俺はみんなに今日の出来事を一から全部話した。


「ゼラさんがこんなことをするなんて…信じられないです。」

マーガレットは悲しそうな顔をしている。


「そういえばゼラさんはここの将官でしたね…。」

「あぁ。あたしの部下であり立派な弟子だったよ。」

「…そうでしたか。」

「あいつは昔から、優しそうだが何考えてるか分からないやつだったよ。うちの一族はムーニー一族と仲が良くてねぇ。ムーニー家の養子のあいつを昔から厳しくしたもんだよ。」


マザーさんはかなり落ち込んでいる。

「ゼラさんにすこしだけ話は聞いてました。数百年続くこの里の貴族で里長だって…。」


「なんでここの人は俺にこんなに驚いてるんですか?」

「本当に知らないんだね、転移の秘密を。」

「…?」

マザーさんはその場で知っている転移のことを教えてくれた。


「まず、世界は無限にあるのは知ってるね?」

「はい。多次元宇宙論ですよね。」

「あぁ。ある世界では私は禁煙できてるかもしれないし、ある世界では男と女が入れ替わってるかもしれない。そういう無限の可能性の分だけ世界があるの。そして当然その分だけ私たちもいる。」

いわゆるドッペルゲンガーってやつか。


「転移っていうのは魂だけをほかの世界から取り寄せてそのドッペルゲンガーに植え付けること。アッシュも半年くらい前から行方不明だからどこに行ったのかと思えば…。」

「それじゃ転生だな…じゃあこの体はハーフエルフの?でもこの通り人間だぜ?」

「魂の持ち主と同じ種族に強制的になるようになってるんだよ!」

「…それじゃあ、うっかり魔人族とかの体に転移しちゃうこともあるじゃん!」

「そうならないように選べるのが王家のスキル”|王の権能(キングドミナンス)”なのさ。」

「そ、そんなの初めて聞いたぞ!」

「このことを知ってるのは伝統的な古式魔法の使い手であるエルフの一族と王族関係者さ。我々エルフの民は転移魔法も得意だからね。」

「ちなみに…アッシュって人の魂はどこに行ったんですか?」

「おそらく元の体の持ち主の魂はもうないね…。死んじまってるよ。」

そんな…俺は知らない間に知らない人を殺していたのか…。


「俺が、殺したんですか…?」

「気に病むことないですよ。殺したのは王族です。」

「そうだよ小僧。君がやることは亡くなったアッシュに恥じぬ生き方をすることだ。」

二人は暗い顔をした俺を慰めてくれた。



とりあえず、このままじゃ俺は絶対にゼラさんには勝てない。ゼラさんに勝利してバーバラを救うには巨人王を当てるか俺自身がさらに強くなるしか方法はない。


その場合この盤面を乗り切るのは一通りしかない。


「マザーさん、ゼラさんの家は昔から古式魔法の転移術式が得意で新聖樹の入口を守ってるって聞いたのですが…」

「あぁ。今もあいつの親が入り口を管理してるが、それがどうかしたかい?」

「そこに連れて行ってはもらえませんか?」

「…弟子の弟子を信じてみるか。マーガレット!案内してあげな!」

「は、はいっ!」


俺たちはムーニー家に2人で行った。かなり大きな屋敷だ。


「ようこそ、小次郎さん。お待ちしていました。私はゼラの父のべラルゴ・ムーニー、こっちは母のデルフィー・ムーニーです。」

どうやら先にマザーが連絡を入れていたようだ。貴族服を来たゼラさんによく似た老夫婦が現れた。2人に連れられて俺たちは屋敷の中に入った。


「ゼラがそんなことをしたなんて…未だに信じられません。」

「まだ分かりませんが、私は離れ離れになったバーバラと王様に会いたいんです。なので、少し協力して欲しいのですが…」

「我々はなんでも協力させていただきますよ」

「そう言っていただいてありがたいです。単刀直入に言うと、自分を新聖樹の上に飛ばしてほしいのですが…」

俺の頼み事を聞いて、3人はかなり驚いている。


「ちょちょ、何言ってるんですか!小次郎さん!」

「そ、そうですよ?神聖樹の上になにがあるかご存知でしょう?」

「はい。番神ヘイムダルが守護しているアスガルズですよね」

「その通りです。あそこに行けば番神に殺されるのがオチですよ?だいたい、何をすると言うのですか…?」


「番神ヘイムダルは万物を見通す神の眼"|神律眼(しんりつがん)"を持っています。」

「えぇ。それを使ってどこへでもどの世界にも行けるのが彼の能力です。」

「それをいただきます。」

「「「は?!!」」」

3人ともかなり驚いている。

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