第9話 魔法レッスン
早速ゼラさんが師匠となり、バーバラと俺に稽古を付けてくれた。
「バーバラさんは昨日の続きを。魔力を練りながらそれによる身体強化をした上で近接戦闘の訓練をお願いします。」
「はい!先生!」
「吉川さんは…まずは稽古ではなく授業をしましょうか。」
「はい、お願いします」
ゼラさんはその場で俺に魔法のことを一から教えてくれた。
「まず、この世界での魔法とはなにか分かりますか?」
「…分かりません、」
「魔法とは言わば魂の真髄です。そのものの魂を文字通り削って発動されます。故に、魔力が少なくなれば精神的にも疲弊しますし、魔力が尽きたら死んでしまいます。」
「なるほど。」
「あなたたち転移者もここに来た時に固有スキルはそのものの性格などで決まると説明されたのではないでしょうか?それはメインスキルの魔法術式が本人の魂の形を表しているようなものだからです。」
そう考えれば、軍隊や武闘家ではなく高校生を転移させたのは精神的モラトリアムの時期にあるからなのかもしれない。若くてこれから成長していく中で無限の可能性が広がっているのが俺たちだからなのだろう。
「ということは、魔法を強くするには魂を訓練しないといけないということですか?」
「ざっくり言えばその通りです。魂を鍛錬し、己の魂に磨きを加えることで魔法はより洗練されたものになります。ですが、魂の鍛錬以外にも強くなる方法はいくつかあります。」
「…というと?」
「これは若い時に起こることが多いですが、魂が急激に成長する瞬間は格段に強くなり、メインスキルも派生したスキルに進化することがあります。」
「知り合いに|聖勇者(ホーリーブレイブ)のスキルを持っているやつがいるのですが、ということは|聖なる(ホーリー)スキルの|聖勇者(ホーリーブレイブ)は|勇者(ブレイブ)の派生ということですか?」
「そういうことです!というか、それはかなり特殊な例ではありますね笑 自分も話には聞いていましたが、転移者の1人が持っているその|勇者(ブレイブ)スキルは1つの時代に1つしかない特殊なスキルです。まあ、普通は時代に1人もいませんけどね笑」
あいつは最初からそんな強いスキルを持っていたのか、。
「その|勇者(ブレイブ)スキルのように、世界にはある程度穴を埋める力があるとされています。」
「…どういうことですか?」
「例えば、人間でも病気やウイルスに感染したら免疫が働きますよね?それに、暑くなったりしたら汗をかき、寒くなったらくしゃみや鳥肌など筋肉を働かせることで熱を産み体温を一定に保とうとする。それと同じようなことが世界全体で行われていると考えられています。」
一気にスケールの大きい話になった。
「つまり、足りないところを補う力が働いているということですか?」
「その通り!まああくまで仮説ですけどね。|勇者(ブレイブ)スキルの者が現れたのも、魔族を占める魔王の力が強くなりすぎているからと言われています。」
「…でもそれじゃおかしいですよね。それは言わば生態系のようにある程度形を保とうとするということになりますが、僕たち転移者のような外来種が来ては崩壊する恐れがあります…。」
「さすが、鋭いですね!確かにそうではありますが、あなたたちを転移させた王様が代々受け継いできた|王の権能(キングドミナンス)という固有スキルによってできる限りその生態系に悪影響を及ぼすことなく転移させることが可能なのです。そのスキルこそが、彼ら一族を古くから王とする1番の要因とされています。政治的には転移させることは権力を示すことになります。」
「なるほど…すごいスキルですね。」
民衆が知っているか分からないが、転移に多くの人の魂が使われているということは王は人の生き死にを左右することができるということになる。それも含めての権力の誇示ということなのだろうか。
「なんで自分はそんな大事なことも知らされてないんですかね、」
「きっとあなたのスキルを恐れているのでしょう」
「話が逸れましたが、吉川さんにはとりあえず自分の魂と向き合ってもらいます。」
「…というと?」
「さっきも言った通り、魔法とは魂の真髄です。魔法を鍛える前に大前提やらないといけないことは自分自身をよく知ることなのです。」
「では、どのように向き合えば良いのでしょうか」
「そこで私がエルフ族に伝わる古式魔法であなたの精神に直接触れ、覚醒を促します。まあそこで自分の魂と対面して成功させられるかどうかはあなた次第なのですがね笑」
俺はゼラさんの指示通り胡座になって目をつぶって集中した。
ゼラさんは俺の背中に手を当てた。
「では、行きますよ。準備はいいですか?」
「はい。お願いします!」
「クオリア!」
ゼラさんの魔法が背中の手から発動してきた。
強く何かを感じて目を覚ますと宇宙のような果てしなく暗い星空の空間があった。
「ここは…どこだ?」
「魂の聖域。分かりやすく言えば精神世界だ。」
「お前は…?!」
目の前には俺がいた。俺の顔、体、服装まで同じだった。だが、色が無かった。白と黒のモノクロのような姿をしている。
「俺はお前だよ。正確には|魔魂体(まこうたい)ってやつだ。魔法を繰り出すためのお前の魂そのものだよ。」
「手っ取り早くて助かる。さすが俺だな?単刀直入に言うが、俺を覚醒させてくれ」
「嫌だ」
「即答かよ…、何が望みなんだ?」
俺のくせに回りくどいやつだ。
「俺も手っ取り早いのが好きだ。だから、俺と戦え!」
「は?」
「ルールは魔法禁止。まあ使おうと思ってもここじゃ使えないけど。あとはまあ、なんでもありだ」
「…なんでもか。」
「そ、なんでもだ。ただ時間も無制限。ここでは物理的な時間は流れてないからいくらいても何回戦っても大丈夫だ。それにトイレの心配もないし、死ぬこともない。」
「…なるほどな。つまり積みはないのか。」
「体は死にはしないけど心は別だ。病んだらその時点で積みってわけだ。さあ、どのくらいもつかなぁ!」
あいつはそう言って俺に拳で殴りかかってきた。俺はすぐによけた。
「おい俺、もう初めか?」
「当たり前だ!」
左足の蹴りが来た。足が横腹に当たりかなり吹き飛ばされた。
「ぐっ…」
「弱い!何もかも単調で読みやすい!」
考えろ、ここは俺の精神世界…。魔法は使えないけどもしかしたら…?
刀を手に握りやつに斬りかかった。
「気付いたようだな。そう、ここは魔法の概念を具現化したような世界だ。盗んだものもここで使える。」
「あぁ、でもお前も使えるんだろ?」
「その通りッ!」
ヤツはサーベルを2本両手に持ち、二刀流で俺に応戦してきた。
力強い剣撃が俺の腕にもろに伝わってくる。必死に応戦しても意図も容易くいなされてしまう。
激しい攻撃か繰り出された。こいつは強すぎる…
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