第8話 戦慄 対 俺

「もうゼラさん来ちゃったよ!?はやく庭に来なさい!」

俺は戦闘服に着替えて庭に出た。幸いにも城にいた時に一通りの荷物はこっそりスキルで盗んでいた。



「おはようございます吉川さん。私がヨトゥンヘイム、エルフの里の長ゼラ・ムーニーです。彼女のお父さんに事情は聞いているので、何卒よろしくお願い致します。」

「よ、よろしくお願いします。」

糸目で柔らかい表情が特徴の優しそうな男だ。ハーフエルフだが、エルフならではの釣った耳はちゃんとあるようだ。優しそうな表情なのにとてつもない魔力を放っている。


「…もしかして自分、もう試されてます?」

「なぜそう思うのですか?」

「すごいデカい魔力がひしひしと伝わってくるんですが…。」

「こ、これは失礼!自分、抑えるのが少々苦手でして、意識すれば大したことないのですが笑」

「な、なるほど」俺は苦笑いした。


俺は三銃士のエドワードやアトスとかいうやつみたいに、強いやつはその強い魔力をあまり外に放っておいたりしないと分かっていた。よーく集中して感知すれば分かるが、おそらく常時魔力を封じる|術(すべ)を知っているのだろう。

つまりは、強い鷹ほど爪隠しがちってことだ。


「早速ですが、吉川さん!」

「は、はい!」

「私と、お手合わせ願えますか?」

「…はい?」

この優男は何を言ってるんだ、。あの魔力を見せておいてとんでもないことを言いやがった。


「ルールは簡単!私に1回でも攻撃を当てたら勝ちです!」

「ちょちょ、何言ってるんですかゼラさん!!あなたは1種族の長なんですよ?!」

「そうだ!もっと言ってやれバーバラ!」

「構いませんよ笑 私こう見えて回復魔法も得意なんです!」

「まじかよ…ほんとにやる気じゃん、」

ここはやるしかない。たぶんやらないと引かないタイプの人だこの人。


「もちろんです!じゃなきゃ稽古はおろか、ここで私に殺されてもらいます!あ、負けてもそうです!」

「えぇ?!ま、まじですか?!」

「ゼラさん!何言ってるんですか?!小次郎が勝てるわけないじゃないですか!」

失礼なやつだが、本当にその通りだ。

「勝てば全力であなたを訓練しますよ?」

「…分かりました。」

「え、やるの?ほんとに?」

「いや、仕方ないだろ!殺されたくないし、」


2人は庭である程度距離を開けて戦闘態勢に入った。

「や、やりますよ!?」

「えぇ。では、スタート!」


俺は走って間合いを詰めた。インベントリから練から貰った小刀で一気に攻めた。



一瞬で手首をすごい力で殴られて小刀を離してしまった。

「そんな物を持ってたんですね!」

間髪入れずに右足で蹴りを入れられた。左腕で防御したおかげで頭には喰らわなかったが、かなり吹っ飛ばされた。


「痛!てか、つよ…。」

「そろそろこっちも攻めますよ?|大地の乱杭(ランドパイル)!」

円柱系の杭のような土魔法がこっちに猛スピードで向かってくる。

「やべ、これしかねえ!」

俺は奴隷市場で奪った奴隷を閉じ込めていたガラスの壁を置いた。


土魔法の杭が当たった瞬間一瞬でガラスが砕けた。

「おいおい、一応強化ガラスなんですけど!」

俺は城で夜な夜なこっそり盗んでいた武器数十個を全て一斉に相手に向かって放った。


「これは、生成魔法ではないようですがすごいスピードですね!」

少し苦戦しているようだが、あっという間に払い除けてしまった。


「吉川さん?まさか!?」

払い除けたが、俺は視界に入らないよう瞬間移動した。

|隠者(ハーミット)で気配を全て消してもらった時に少しコツを掴んだが、ぶっつけ本番で気配を消せたのは自分でもさすがに驚いている。


俺は飛ばされた小刀を払い除けている間に拾い、やつの背後に瞬間移動して思い切り刺し倒した。

「やはり、背後でしたか!」

すぐに振り向かれて小刀を持った両手を掴まれたて刺せはしなかったか、押し倒して上に乗ることは出来た。あとはこのまま体重を乗せて刃先を胸に付けば…!


「力すごい強いんですね…」

とてつもない力だが、さらに体重を乗せる。だが刃先は胴に届きそうにない。


仕方ない。やつの手足を抑えている俺の手足を全てかけて一瞬だけ逆立ちに近い体勢に持ち込む!


「喰らえ!」

俺は逆立ちのように小刀を持った両手に全身の全ての体重を乗せた。

「ゼラさん!」

悲鳴に近いバーバラの声が聞こえた。


するとゼラさんは両手だけのはずなのに俺の全体重をのせても押し返して俺は軽く飛ばされてしまった。


「くそっ…。無理でした、。殺すんですか?」

ゼラさんは起き上がって俺に言った。

「いえ、あなたの勝ちですよ。ほら、これ。」

胸を指して言った。胸には小さな服の穴が空いていた。下のシャツが1枚あるが、確かに上着に穴が空いていた。


「一撃は一撃です!約束通り、私がみっちり訓練致します!」

「あ、ありがとうございます!」

「小次郎!良かったわね!」

「あぁ!ほんとギリギリだったな…」


こうしてゼラさんによる半年間の地獄の訓練が始まった。

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