第5話 奴隷解放

俺とネネは夜中に城を抜け出した。



「大丈夫?バレたりしない?」

「そりゃ黄瀬の|隠者(ハーミット)をかけてもらってるからな。1時間だけだけど、」

「そうだけど…!」

「そろそろだよ。目的地。」


俺たち2人は貧民街に着いた。

「ここ、なの?」

「あぁ。会議の時、ちょっと噂を聞いたんだよね」


2人は貧民街を進んだ。街灯はおろか、脆い家々ですら明かりは一切なかった。目を凝らしてみると、病気で倒れ込んだ老人や飢餓で痩せ細り今にも死にそうな子供がそこら中に横たわっている。

「ひどいわ…。こんなのあんまりよ、」

「全くだ。ここまで酷いのに国は何もしないのか」


しばらく歩いた後、一際暗い路地裏に着いた。

「いたいた。今回の目当て。」

「こ、これが?」

路地裏で男女の小さな子供たちが屈強な男に無理やり攫われているのを目撃した。


「ひどい!助けないと…!」

「まあ待て。これで終わりじゃない。」

屈強な男が3人がかりで子供たちを無理やり袋に入れた。そのまま袋を持ち足早に去っていった。


「袋に消音の魔法がかかってる。追いかけよう!」

「えぇ、そうね。」

俺たちは男たちの後をひっそりと追っていった。



後を追うと古びれた建物の地下に入った。

「こ、これって…?!」

ネネはかなり驚いた。貧民街の中心に位置するみすぼらしい建物の地下に、城顔負けの豪勢なシャンデリアやカーペットがある広い部屋があったのだ。あまりに異質な光景に、人さらいの男を見失ってしまった。中央にはとても大きな門がある。辺りには仮面を着け、高そうなスーツを着た男たちがおり、そのまわりには1人につき最低1人はガードマンがいた。

「ネネ、分かるだろ?こいつら」

「えぇ、みんなあの時会議にいた貴族たちね。」


小太りの仮面の男が大きな声で会場の全員に呼びかけた。

「それでは皆様!お待たせ致しました!これよりヴァルデンシア王国奴隷市場を開場いたします!」

ネネに衝撃が走り、周りの貴族たちはザワついた。


「…ど、奴隷市場?!もしかして小次郎、買う気なの?」

「だったら透明になって潜んだりしないだろ?とりあえず回ってみよう。」

2人は人混みを上手く避けながら奴隷市場を回った。体育館ほどの広さに、ショーケースの中に囚われた奴隷たちが展示されていた。全員が首輪や足枷、手錠などの拘束具で身動きが取れず逃亡できないようにされている。


奴隷は年齢も性別も種族さえも様々で、労働力や護衛用の屈強なゴブリンや獣人、観賞用や使用目的の人魚やエルフ、召使い用の小人などもいた。


中には明らかに酷く怯えている者や全てを諦め人生に絶望した目をしていた者もいた。今にも暴れだしそうな者は近くにスタッフのようなものが鞭を持っていつでも抑えられるようにしていた。


「ひ、ひどすぎるわ…ひどすぎて言葉も出ない。」

「あぁ。本当に同じ人間とは思えない」


2人はしばらく回ると、次に市場の中央に行きあることを企てた。

「ネネ、少し俺に魔力を分けてくれないか?」

「え?いいけど、何をする気?」

「こいつら全員外に出させる。」

ネネは口を開け唖然とした後に嬉しそうに小次郎の方を見た。


俺の|盗賊(バンディット)スキルは対象を認識して自分の持ち物にする魔法。故に鋭い観察力や洞察力が必要だ。だから市場の全てに組まなく目を通し、必要最低限度の魔力で脱出させられる算段を立てた。


「でも、どうやって魔力を渡せばいいの?私そんな魔法使えないよ?」

「俺が盗む。今魔力残量は100%だよな?悪いけど、10%くらいだけ貰うよ」

「そう言わずに20%でも30%でも貰っていいよ!」

「すまない、ありがとう。」


そう言ってネネの手を掴んだ。

「えッ!」

「こっちの方が盗みやすいんだ。|狂盗(ヴォール)!」

ネネの手を通して魔力を20%取った。リングで魔力残量を確認すると200%になっていた。


「おい嘘だろ…お前の20%が俺の100%か。因みに、魔力指数って何なんだ?」

「え、1000くらい?だった気がする」

俺は思わず口を開けてしまった。


気を取り直して魔法の準備をした。

「よし、やるぞ?」

「えぇ。いつでもいいわよ。」

「そろそろ|隠者(ハーミット)の効果が切れる頃だ。透明じゃなくなったと同時にやる。その前にネネ、これ付けろ!」

俺はインベントリから貴族から奪った仮面を取りだした。

「こんなのいつの間に…。」

数十秒経つと本当に効果が切れて姿があらわになった。それと同時に俺は魔法を発動した。

「|大狂盗(スケアリーヴォール)!!」


奴隷に課せられていた拘束具とショーケースのガラスを全て盗んだことにより、一瞬にして同時に消え巨体の奴隷たちが暴れだした。暴徒を止められる者は誰1人としておらず、貴族たちは逃げるのに必死だった。


「手伝ってくれ!あの子たちもみんなを逃がすぞ!」

俺たちは逃げることが困難な子供や老人の奴隷を逃がすために子供と老人のブースに向かった。


俺たちは子供と老人たちを全員一箇所にまとめた。

「ここの天井壊せるか?」

「えぇもちろん!|風天突破(ウィンドストライク)!」

ネネは最初の訓練の時にみせた大きな風魔法を天井に向けて放った。かなり大きな穴になり、瓦礫も落ちなかったほど強い魔法だった。


「この風魔法で、上手いことみんな上げさせられるか?」

「んー、やってみるッ!」

ネネは俺たちをまとめて風で上に運んだ。全員まとめて安全に運ぶのは神経を使ったらしく、魔力を俺に分けたのも相まってかなり疲れている。


「ありがとう!お兄さんたち!」

笑顔で子供たちがお礼をしてくれた。

「お陰で自由になれました、本当にありがとうございます。」

一人の老婆が直接泣きながらお礼を言ってくれた。2人とも、とても気持ちが良かった。


「さあ速く!すぐに兵士たちが来るわよ!」

「あぁ。噂をすれば、あれは藤原じゃないか?」

勇者特有の大きく清い魔力を近くに感じる。


「俺たちも逃げるぞ!全力疾走だ!道は覚えてるな?」

「えぇ!私の風魔法で飛ばせるわよ!!」

「頼む!」

俺たちはネネの風魔法で一気に兵士たちと距離を空け、逃げることに成功した。


しばらく走り続けて、無事バレることなく城に戻れた。

「今日は夜遅くに付き合ってくれてありがとうな」

「良いのよ!少し思ってたのとは違うけど…」

「なにが??」

「なんでもないわよ!」

ネネはなぜか強く言った。

「とりあえず、今日は寝よ。お疲れ様。」

「うん!おやすみ!」


2人は解散し、各自こっそり自分の寝床に戻った。



「貴族の宴会にて、多種族による暴動発生!転移者藤原様、至急応援お願いします!」

藤原は急いで駆けつけると、そこには無惨な死体となった貴族と大暴れしているゴブリンや獣人、魔法を放ち続けている人魚や半魚人などの魔族がいた。

「ひどい…こんなこと、許せない!」

藤原は暴れている者を一掃し、生き延びている貴族たちを助け出した。

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