第4話 会議という名の裁判

夜10時頃、王族や上位貴族、上級兵士が大きな会議室に一堂に集められた。高貴な衣に身を包んだ者たちが100人ほど集められ、かなり騒がしいようだ。


「皆の者!静まれー!」

高い天井に王様の太い声が響いた。


「これより、大預言者シルヴァ・ミネルバ様が最期の予言の当事者、|盗賊(バンディット)スキル保持者”吉川小次郎”の処遇を決める緊急会議を執り行う!」


「ふざけるな!迷わず殺すべきだ!」

「そうだ!処刑せよ!」

ガヤたちがかなり騒いでいる。


「ふう、間に合ってよかったぜ。端っこの通路でじっくり見ようか、ネネ。」

「全く、勝手にこの世界に呼んどいてひどすぎるわ…。」

黄瀬のメインスキル|奇術師(トリックスター)で2人は背景に溶け込んで上手く侵入した。一応後ろの細い通路で隠れている。


「当事者、吉川小次郎よ!入りたまえ!!」

俺はブーイングの嵐に飲まれながら会場に入った。


「吉川小次郎よ。弁明を聞こう。」

「弁明?ふざけるな。俺は勝手に連れてこられて勝手に殺されそうになっているだけだ。これじゃ誘拐殺人と変わらない。」


「構わぬわ!この悪魔め!」

「災いの元凶をのさばらせておける訳ないだろ!」

「静まれ!彼の言う通り、このまま処刑などしたらただの国家で行う誘拐殺人と変わらない。証拠どころか罪状すらないのでは冤罪ですらならない。」

さすがのガヤもぐうの音も出ないようだ。


「ではこうしたらどうでしょうか。王よ。」


一人の男が立ち上がり、俺のいる前に出た。


「お、お主は…!」

「三銃士が一人にして、レイグラット家当主アトス・レイグラットです。私に名案がございます。「ほう、聞こうではないか。」

「このまま国民が予言と転移の事実を知ってしまっては混沌が来る前に人々が混沌になりかねません。なので、事実を少し織りまぜた噂を流します。転移の事実は既に広まっておりますので、厳選した転移者のみの事実を認め、予言は戦争が起きるということに摩り替えて発表します。」


「それでは本当に戦争が来ると思われてしまうではないかね!」

「構いません。戦争は予言なくとも起きるものです。」

「なるほど。して、彼の処遇はどうするのかね。」

「未開の地『ヨトゥンヘイム』に追放します。正確にはこの王国の領地ではありますが、巨人が住むあの地では3日と持たずして殺されるでしょう。仮に巨人の数を減らし生き延びたとしてもそれはそれでこちらの好都合です。」


「そ、そんな…小次郎が、追放?」

ネネが悲しい顔を浮かべた。

「あぁ、こりゃひでえ。実質処刑と変わらないじゃないか。」

「小次郎なら、きっと生き延びるわ。」


「い、生き延びたこいつを誰が止めると言うのだ!」

ガヤの1人が大きな口を開いた。

「そこは私にお任せ下さい。この国で2番目に強い私にかかれば造作もないことです。」


「構わねえぞ?その時にはお前なんてぶっ殺せるくらい強くなってやるよ。」

「黙れ下衆が!汚い口を閉じろ!」

「お前などアトス殿にかかれ虫に等しいわ!」

俺が一言放っただけでやたらとガヤたちは噛み付いた。


ガヤが数分ザワついた後、王が口を開いた。

「良かろう明日の朝、城下町の大広場の壇上にて転移者召喚の一件と偽りの予言を発表するッ!そして、明日の正午にて密かに|盗賊(バンディット)スキル保持者吉川小次郎をヨトゥンへイムに追放処分とするッ!異論がある者は直ちに今述べよ!」

あれだけ騒がしかったはずのガヤも黙り込んだ。


「意義のないようならば、決定とするッ!これに解散だッ!!」

ガヤたちも俺も一度帰った。潜んでいたネネたちは全員がいなくなったところを見計らって、同じように帰った。


俺は最後の景色を見納めしようと、城の頂上から夜の風景を眺めていた。そこで後ろから大きな魔力の気配がした。

「ネネか?大きな魔力がダダ漏れだぞ。さっきはあんなに隠せてたのにな」

「ぜ、全部気付いてたの?!」

「当たり前だ。俺は仮にも盗賊だぞ?…なんか、久しぶりだな。俺のことまだ気にしてくれてたとは」

「久しぶりって、ずっとそばにいたじゃない。気にしてなかったことなんて、一時も…。」

「というと?」

「な、なんでもないわよ!」


「…小次郎、大丈夫なの?」

「あぁ。実はこれから追放される前に行きたいとこがあってな。一緒に来ないか?」

ネネは少し黙り込んでしまった。


ネネ(これってもしかして、デート?!)

「いいの?久しぶりにお出かけと行きましょ!」

「やけに嬉しそうだな。あと、そこにいるんだろ?付き添い。」


そう言うと、背後から黄瀬が出てきた。

「す、すごいな。結構頑張ったんだけど俺の魔法、|隠者(ハーミット)でもバレるなんてすげえな」

「悠里?戻ったんじゃないの?!」

「気になって来ちまうだろそりゃ!」

「…ちょうどいい。頼みたいことがあるんだけど」


俺は黄瀬に頼みごとをした。

「まぁ、そのくらいならいいけど。あとで借りを返してくれよ?」

「いいけどお前わかってんのか?明日行くんだぞ?」

「大丈夫さ。どうせ生きてるんだろ?ネネがそこまで言うならそうなんだろうな。」


こうして俺たち2人は城から抜け出して街へ出かけた。

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