第10話
翌朝、目が覚めると目の前に彼方の顔があった。
いくら同じベッドで寝ているからとはいえ、普段はここまで傍で寝ていることは無かったのもあって驚いてしまった。
彼の顔を見て少し緊張しつつ息を整えながら起き上がると私は下着姿のままだった。
手当てをしようと準備だけして寝てしまったようだ。
そこで失敗した、とそう思った。
こんな格好をしていたわけだし、彼方に身体の怪我なんかを見られたかもしれない。
怪我を見ていたとしたら根掘り葉掘り訊かれてしまうだろう。
さて、どうやって誤魔化そうか。
痣の残る箇所に湿布を貼ったりと手当をして、部屋着を着ながら考えていると彼方が目を覚まして起きてきた。
「ひな、おはよう」
「……うん、おはよ」
朝の挨拶を交わすと彼方は何を言うでもなく部屋から出て行った。色々と訊かれてしまうと思っていた私はなんだか拍子抜けしてしまった。
彼方と一緒に朝食を取りながら、いつ彼が私の怪我について訊いてくるのかとビクビクしていた。
怯えながら食べた朝食は味気ないものだった。
「ひな、今日も保育所に行くんでしょ?」
「……あー、うん。そのつもりだけど」
「なら、湿布貼ってるのは見た目的にマズいんじゃない?」
「こういう事よくあるし。職員はみんな私がよく怪我するのは知ってるよ」
「そうじゃなくて、子供達が心配するんじゃないかって話。ちょっとこっち来て」
彼方に呼ばれて部屋に行くと彼はファンデを取り出して顔だけでなく、痣が目立っていた腕なんかにも塗ってくれた。
その後、彼の持ち物である黒いタートルネックニットの服を貸してくれた。
オーバーサイズのそれは小柄な私でも着れて、着心地も良い。
「よし、これで大丈夫そうかな」
「うん、ありがと」
準備が終わって時間を見ると結構ギリギリだった。朝食の後片付けを彼に任せて私は足速に家を出た。
結局彼は何も訊いてはこなかった。
それどころか怪我を誤魔化すのを手伝ってくれた。
時間ギリギリで託児所に着き、いつも通り幼児達の世話をする。
今朝方の彼の言動が読めなくて戸惑う。
何事も無かったのようにいつも通り振る舞い、事情なんかは何も訊いて来ず、冷静沈着に私を送り出してくれた。
そういえば彼方は一緒に寝ていたのだから私の下着姿だって見ていて、その時に怪我について知れたはずだった。
なのに起床した私の身体は何の手当ての形跡も無いままだった。
普通心配とかしないものか。
それとも私が怪我をしていても気にならないのだろうか。
彼方にとって私は気にもならない取るに足らない存在なのかな。
そう考えてしまってから私は自分の頬を叩いた。
いや、そんなことないのは知っている。
彼は毎週毎週疲れて帰宅した私を憂慮した顔で出迎えてくれる。
疲労からか足取りの覚束ない私に寄り添って部屋まで連れていってくれる。
今朝のことだってそうだ。
心配してくれているから、気を遣ってくれているからこそ何も訊いてこないのかもしれない。それを私は──。
我ながら最低だな、と思った。
そんな風に考え事をしながらお世話をしていた私は時間の観念を失ってしまっていたようで、とっくに『決まり』となっていた16時を回っていた。
まずいと気づいた時には遅かった。
「あれっ……、また陽葵がいる。髪短くなってんじゃん」
「えっ、そんなわけ。だってさっきは食堂に……。って本当だ、なんでいんの」
何処からか帰ってきた少年二人と出くわしてしまった。
私は慌てて保育士の一人に声を掛けて謝ってからその場から逃げた。
私の事情を知らないその保育士は途中で世話を投げ出したことに腹を立てたらしく背後で何か文句を言っていたがお構いなしだった。
家に戻ると驚いた様子の彼方に出迎えられた。
「おかえり、今日は遅かったね」
「うん、ただいま」
「何かあった?」
「ううん、少し考え事してたらいつの間にか時間をオーバーしちゃってたの」
「そっか。けど何も無かったんなら良かったよ」
彼方は昼食を取りに行くだけ取りに行って私が帰ってきてから一緒に食べようと思っていたようで、私が帰ってくるのを待ってくれていたらしい。
「待たせちゃったみたいでごめんね」
「ううん、気にしないでいいよ」
二人で一緒にお昼のご飯を食べてからいつも通り彼方に教えながら勉強をしていた。
そんな時、玄関のインターホンが鳴った。
「はーい」
返事をしながら扉を開けると、そこにいたのは、ちょーさんだった。
彼女の姿を捉えて、私は慌てて扉を閉じようとした。
彼女も私がする行動を読んでいたのか、閉まろうとする扉を掴んで無理矢理扉を開けた。
「……っち」
「随分な挨拶ですね。
彼女は図々しくもそのまま家の中へと上がり込んできた。
「あら彼方さん、こんにちは」
「施設長さん、こんにちは」
「彼方さん。悪いのだけど、陽葵さんと二人で話さなきゃならないことがあるから、しばらく部屋にいてもらってもいいかしら?」
「はい、分かりました」
「かな、私の引き出しの中にヘッドホンとMP3のプレーヤーが入ってるはずだからそれで音楽聴いてていいよ」
「うん、分かった」
ちょーさんは彼方が部屋に入るのを待ってから話し始めた。
「陽葵さん貴方、今日は園児達のお世話が随分とお粗末だったらしいわね。授乳もご飯も掃除も全て。彼らの面倒をきちんと見てあげられてないだけでなく、途中だった仕事を投げ出していったそうじゃない」
「それは、少し考え事をしていて……。それに途中で帰ったのは子供達に出くわしちゃったからで……」
私がうっかり余計な事を言ってしまうと、ちょーさんは信じられないとでも言うように私の肩を思い切り掴んで迫ってきた。
「あなた、彼らに会ってしまったの」
「そうだけど」
「つまりあなたは私との約束を破ってしまったのね。私はあの子達に会わないように行動しろってあなたに口を酸っぱくして言っていたはずよ」
「そんなのたまたま会っちゃっただけで……、確かに時間を忘れてたのは事実だけど、ちょっと会ったくらいで大袈さ──」
「大袈裟なんかじゃないのよ。『あなた』って存在がいることを他の子供達が知ってしまって考え方が歪んじゃったらどうするの」
「……なにそれ」
私の言い訳じみた言葉に対し凄い剣幕でちょーさんは叱った。
その言葉が気に食わなかった私はカッとなってしまい、私の肩を掴むその手を払い除けながら目の前の彼女に食ってかかった。
「考え方が歪むって、何その言い方!もしその子がそう思うんなら、そう望むんなら。それがその子の考え方でしょ?寧ろこうやって手を回してあの子達の視野を狭めるような事をしてること自体、子供達の考え方を歪ませる結果を産むんじゃないの!」
「私はこの児童養護施設を管理するものとして、そして子供達の親代わりとして、彼らを一般的で常識のある大人に育てていかなければならないのよ」
「なにそれ、意味分かんない!」
「本当ならあなたもその対象であるはずなんだけど、あなたは出会った時から既に他の子とは違ったからね」
「へえ、そうやってまた私のこと異端児扱いするんだ。それでまた私のこと頭がおかしいとかって罵るんでしょ」
「あなたは他の子供達とは違うんだもの。その事で私がどれだけ気を回してるかあなたは知らないでしょ。それなのに私の気も知らないで話をすれば不満ばっかり。ほんとあなたの相手をするのは疲れるわよ」
最後のその言葉を聞いた途端、こんな言い合いをしていることすら馬鹿馬鹿しく思えてきた。
「あー、そうですか。施設長様が私の事どう見ているのかよーく分かりました。相手をするのが疲れるのなら無理をされなくて結構です。どうぞお引き取りください。そして二度と来ないでください」
「……はあ、本当に面倒くさい子。あなたと話すとなんでこう話が逸れていくのかしらね」
「それで、他に用件はありますか。施設長様?」
「……何、その態度。もうなんでもいいわ。とにかく他の子供達もそうだけど、あなた自身も他の子供達に会うことで傷つくんだから。以後、気をつけなさい」
「はいはい、承知しました」
「じゃあ、また様子見に来るから」
「いえ、来てくださらなくても結構です」
「また来るわ。ここに住んでいるのは今はもうあなただけじゃないしね」
「なら私がいない日を事前に調べてから来られると良いかと思います」
「そんなの調べられるわけないじゃない。あなた、自分の予定なんて誰にも伝えないんだから」
「ならいつもここにいるので、二度と来ないでください」
「……ほんとにあなたは。とにかくまた来るから」
ちょーさんはそう言い残して力強く扉を閉めて立ち去った。
「あのオバサン、ほんとにムカつく!」
リビングで暴れながら叫んだ。机をなぎ倒し、椅子を投げて、床に転がっていたクッションを蹴った。
発狂して、物に八つ当たりして回った。
そして少ししてから一周回って冷静になって、今度は涙が出てきた。
言外に私の存在は他の子供にとって害になるとまで言われた。異端だと、埒外だと蔑まれてしまった。
何でそんなことを言われなきゃならないのか。
私が声を上げて泣いていると後ろから彼方が抱き締めてくれた。
こんな結果になることが分かってたから聞かせまいと知られまいと思って声を掛けたけど、結局彼方は全部聞いてしまったらしい。
「大丈夫、ひなは何処もおかしくなんてないよ」
そう言って頭を撫でて慰めてくれた。
暴れたせいで手やら足やら色々な擦ってしまっていたようで、絆創膏や塗り薬で手当をした。
その間に彼方が食堂にご飯を取りに行ってくれた。
彼方と一緒にベッドに横になった私は彼の背中に張り付くようにして寄り添った。
そしてぽつりぽつりと話し始めた。
「あのね、私施設で生活するようになってすぐの頃に他の子供達と揉めたことがあるんだ。子供達は単に思ったことを口にしただけなんだろうけど、言われた私の方はものすごく腹が立っちゃってね、挙句の果てに殴り合いの喧嘩に発展したんだ。その時は施設の職員に止められて、終わったんだけど後日また色々あって問題になっちゃって、ちょーさんに呼び出された」
彼方は頷きながら静かに聞いてくれている。彼が寝ているという可能性も疑ったが構うことなく話しを続ける。
「その時ちょーさんからね、『あなたが他の子供達とは会わないようあなただけの決まりを作ったから。あなたはそれを守りなさいね』って言われたの。理由を訊いたら『あなたは他の子達は違って色々と特殊なのよ。そんなあなたとあの子達に共同生活を送らせるなんて私は許容できないわ』って言われたの。お陰で私は一人孤独に生活しなきゃいけなくなったの。それで、そのすぐ後で学校で色々あって私が登校拒否をするようになった。それからかな、ちょーさんは事ある毎に私に対してケチをつけてくるようになった。だから私、あの人のこと大嫌いなの」
独白が終わりると私は仰向けになって木製の天井を眺めた。先ほどまで背中を貸してくれていた彼方が起き上がって私の方を向いた。
「僕はひなの事情を知らないし、施設長さんが何を考えてひなに対してあんな対応を取るのかも分からないから何も言えない。ひなが施設長さんの相手にしたくないなら無理に相手をする必要も無いと思う。
だけどさ、やっぱり決まりを守れなかったっていうのは良くないと思う。施設長さんだってひなの事も子供達の事も考えて決まりを作ったんだと思うし、その決まりを受け入れて生活をしているんだったら守るべきだったと思うんだ。
ひなは条件を飲んでここに住んでいるわけでしょ。だから今日のことに関しては約束を守れなかったひなが悪いと思うし反省するべきだと思うよ」
彼方は真っ直ぐ真剣な顔で私の方を見てそう私を詰った。
「それは……」
言われなくても分かってる。
ちょーさんの私に対する扱い云々は置いておいて、決まりを守らなかったのは私の方だ。
考え事に夢中になって、心ここに在らずで幼児達の世話をした。
そして会わないようにと言われていた少年達に遭遇してしまった。
慌てて逃げたことで保育士に迷惑を掛けてしまった。
全ては私のミスだ。
過去に受けた扱いについてを掘り下げて糾弾してばかりで自分の反省なんかは二の次になってしまっていた。
彼方の言う通り、悪いのは叱りに来たちょーさんの方じゃなくて私の方だ。
「うん、そうだね。私が悪かったと思う」
「そっか。じゃあそれが自覚出来たなら、次はどうすればいいと思う?どうするべきだと思う?」
そう問い掛けられ、考えるまでもなく答えは出た。
「……ちょーさんに謝らなきゃだよね」
「うん、そうだね」
彼方は納得したように頷くと、私の方へ手を伸ばしてきた。その手を掴むと彼は私を起き上がらせてくれた。
私は軽く身なりを整えてから玄関に向かった。
「じゃあ、行ってくるね」
「うん、いってらっしゃい」
彼方に見送られながら私は家を出た。
行くと決めたは良いものの、やっぱり気は重たい。今回のことが自分のせいだということは自覚したけど、それでもちょーさんのことが嫌いな事には変わりない。
今までだって顔を合わせれば言い合いをするような関係だったのだ。
いざ会うとなればどんな顔して会えばいいのか分からない。
少し歩いて私達の住むものよりひと回りもふた周りも大きいログハウスに辿り着いた。
施設長である彼女は普段ここで仕事をしている。
深呼吸をしてから扉をノックした。
すると部屋の中から返事が聞こえてきて、すぐに扉が開けられた。
「あら、陽葵さん……?どうしたの」
「……少し話をしようと思って来た──、来ました」
「そう。とにかく入りなさい」
「はい。失礼、します」
ちょーさんの部屋は書類まみれだった。
部屋の至る所に紙束が山のように置かれていた。
どうやら彼女はここを家としてではなく、事務所の代わりとして利用しているようだ。
ただ、忙しい時には寝泊まりをするのか、部屋の中には布団が何セットか用意されている。
「散らかっているけど、まあその辺に座りなさい」
「……あっ、うん」
ちょーさんはそう言って椅子を勧めてくれた。
椅子に腰かけてから部屋の中を見渡すと部屋の中にはたくさんの写真が飾られていた。中には若い女性の遺影と思わしきものまである。
「その写真ね、私の娘なの」
「随分若いみたいだけど、死んじゃったの?」
「ええ、孫を産んだ時にね。娘の死がきっかけで私はこの施設を管理するようになったの。元々娘がここの施設長をやっていたからその関係でね」
「そうだったんだ」
私は何も知らなかった。
今まで来ようとも思わなかったのだから当然だが。
「それで、どうかしたの?何か用があって来たんでしょ?」
「うん、今日の件で謝ろうと思ったの。さっきはちゃんと素直に話が聞けなくて、自分の失敗を反省することも出来なかったから」
「あのね、たとえあなたと私の間で口約束で決まったことだとしても決まりは決まりよ。そしてあなたそれを違えてしまった」
「……うん」
「だからって私はあなたのことを責めようなんて思ってなかったの。ただ注意をしたかっただけ。もしまたあなたと子供達の間でトラブルが起きてしまったら、またあなたは傷つくだろうし苦しい思いをするだろうからってね」
「……うん」
「別に私はあなたを排斥しようなんて思ってないのよ。ただどうやって対応すべきか、接するべきか戸惑う部分はあって、もしかしたら私のそういう戸惑いがあなたには悪く映ってしまったのかもしれない。それは私の反省点だわ」
「……うん」
「ただやっぱりあなたの事情は複雑で難しいのよ。上手い対応の仕方も思いつかないからどう扱うべきかで悩むばかりだわ。おまけに学校にも行けなくなってしまって、それに関しても何とか出来ないか考えたわ。けれどなまじ頭が良いあなたは通学の必要性を感じていないようだし、だからってこのままで良いのかってことも考えたりして。学校側からは『本人に通学する気がないなら早く退学させろ。そう出来ないなら何としてでも通わせろ』って毎日のように苦情の電話が入ってきたりしてね」
学校に関してそんなことになっているなんて私は知らなかった。
いや、そうじゃない。今まで全く考えて来なかった。
嫌な環境から逃げた結果周りに迷惑を掛け続けていた事に気づけていなかった。
「そういう背景があって、だからちょーさんは私に対してしつこいくらいに学校の話をしてきてたの?」
「ええ、そうよ。まあ私自身もあなたがきちんと学校に通ってくれたらってそう思っていたからね。それをあなたに押し付けてしまっていたのは間違いないし、あなたが私を嫌悪するのもあながち間違いではないのかもね」
「……ちょーさんの気持ちとしつこく言ってきていた理由は分かった。それでも何度行けって言われたって私は学校には行かないし、行けない」
「あなたが酷い目に遭ったのもその事でトラウマを作ってしまったのも知ってるから無理に行けとは言わないわよ。そう気を遣ってるから今までだってなんやかんや言いつつも見逃してあげていたでしょ」
「……だったらわざわざ家に来て説教みたいなことしなくても良かったじゃん」
「言ったでしょ。私だって通って欲しい気持ちはあるのよ。だからあなたを訪ねる度に心変わりをしてくれてたらって期待をしちゃうのよ」
「なら申し訳ないですけど、諦めてください」
「そう、少し残念だわ」
私のおことわりの返事を聞いたちょーさんは分かり切っていたと言わんばかりに落胆しつつも微笑を浮かべていた。
その後、近況を話しつつちょーさんからの話も聞いた。
そして私限定の決まりについて改めて話し合った。
週一の頻度で昼から夕方の間で出掛ける都合があるのなら寧ろそれ以外の平日も同様のタイムスケジュールにしてはどうか。
今日の事だって出る日と出ない日の時間感覚のズレが影響して時間への意識が薄れてしまっていたのかもしれない。
とちょーさんは言う。
私はちょーさんの意見を受け入れ、今度こそは子供達に会わないという決まりを守れるように行動する事を誓った。
「でも本当に驚いたわ」
「何が?」
「あなたがこうしてここに来た事よ。あなたがわざわざ謝りに来るなんて思わなかったから」
「何、その言い方。私だって自分を反省することくらい出来るよ。今日だって一応は反省してたし」
「反省してるかしてないかとかそういう話じゃなくて。その日の内に、しかも私の家に謝りに来たことに驚いたの。今までは反省してもそれを露骨に態度で示すことなんて無かったし、ましてや私の家を訪ねてまでわざわざ謝ることなんて絶対に無かったじゃない」
「……まあ、そうだけど」
「彼方さんのお陰かしらね」
「うっ……」
「あら、正解?」
「そうだけど。そうだけど……!」
彼女に図星を突かれて、悔しいというか情けない気持ちになってきた。
彼方のおかげなのは間違いないから何も言えないし何も言えないのが悔しい。
この時ばかりは彼方に後押しされなきゃ謝りに来ることすら出来ない自分が情けなかった。
「あなたと出会ってから二年近く経つけど、初めてちゃんと貴方と話をした気がするもの。あの子には感謝しなきゃね」
「私もちょーさんとこんなに話すなんて思ってもみなかった。あのままだったら私は色々暴走してちょーさんとの縁を切ろうとして行動したと思うし」
「あら、家出でもするつもりだった?」
「最終的にはそういう事も考えたかも」
私は相変わらずちょーさんのことは好きじゃないし苦手だと思う。
それでもこうしてちゃんと話をした結果、『嫌い』ではなくなった。
たとえ相手の言うことに不満があったとしても一度はきちんと話を聞くべきなのかもしれない。話を聞いて話す相手の言葉を一度は飲み込んで受け止める。
不満を言うならそれからだと思った。
これに気づけたのも捻くれた私を彼方が叱ってくれたからだった。間違いに気づかせてくれて送り出してくれたからだった。
「そうだね。かなには感謝しないとだよね」
いつだって私の味方でいてくれる。辛い時には一緒にいてくれて、慰めてくれて、励ましてくれる。
いつか、彼方にはきちんと自分の事を話そう。そして真正面から向き合っていこう。
そう思った。
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