第八羽「理由はあれど」
「ハルピュイアのくせに余計なこと覚えて。二度と来るんじゃないよ」
目の前にリンゴが転がっている。私は何が起きたのかを理解した。
この獣人にリンゴを投げつけられたのだ。
「あんまりだ!」
フェリテのどなる声が聞こえる。
「ロンディが何をしたって言うのさ!?」
「あたしじゃなくこの子の仲間をうらみな」
対する獣人の声は氷のように冷たかった。私は痛みをこらえながらフェリテをなだめる。
「良いんだよフェリテ。しょうがないよ」
「そんなことあるもんか!」
フェリテの怒りは少しもおさまらなかったようだった。
それでも私は彼をなだめようと必死だった。
「きっと私の仲間がこの人にわるいことしたんだ。だから――」
「だからって何もしてないロンディを傷つけて良い理由にはならないだろ!?」
「それは……」
言葉につまる。フェリテはもう一度獣人を見て言った。
「ハルピュイアがきみに何をしたかぼくは知らない。でも、ロンディがそのハルピュイアじゃないってはっきり言えるよ。だって他の種族と仲良くしたいって思ってるロンディがきみ達獣人にとってわるいことするわけないもの」
その言葉は私の心に強く響いた。
獣人は小さく息をつき、やがてこう言った。
「……すまなかったね。彼の言う通りだ」
「いえ、その、こちらこそ」
彼女は首を横に振る。
「あんたがあやまることは何もないよ」
「でも仲間が――」
「いいんだよ。あんたが何かしたわけじゃないんだから」
彼女は転がったままのリンゴを拾い上げると、私達に向かって言った。
「あんた達さえ良ければ中で待ってておくれ。洗って切ってくるよ」
私とフェリテは顔を見合わせた。どうやら彼女はリンゴを食べさせてくれるつもりらしい。
私達は口をそろえてお礼の言葉を発した。
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