第七羽「おいしそうな果実」
ふと、近くにある店から女の人が出てきた。手にはリンゴの入ったかごを持っている。リンゴは太陽にあたってつやつやと優しい光を帯びていて、おいしそうに見えた。
食べたい。でもがまんしないと。
私が持っていったら絶対嫌われてしまう。
この町には「オカネ」や「ツウカ」というものは存在していない。商品として置かれているものなら勝手に持っていってかまわないのだ。
けれども、どのお店にもしっかりハルピュイア対策がされていた。
勝手に鳴る鈴がぶら下がっていたり、ハルピュイアだけが入れない結界が張られていたり。
当然そのお店にもハルピュイア対策がされていて、大きな鈴がぶら下がっていた。鈴はハルピュイアがもっとも嫌がる音を出す。しかも獣人は魔法が使えるので、ハルピュイアが近づくと勝手に鈴が鳴るように魔法をかけていた。
リンゴは食べたいけれど、鈴を鳴らされたら騒ぎが起きるし、何よりもその様子をフェリテに見られたくない。
そう思っていると、近くでぐううっと音が鳴った。
「ごめん。あのリンゴ見てたらおなかすいちゃったみたい」
どうやらフェリテも私と似たようなことを思っていたようだ。
「じゃあ、とってきてあげる」
私はフェリテを連れて店の前に下り立った。
「すみませーん」
呼びかけると、その獣人はすぐにこちらを見た。頭にはウサギの耳が生えている。
「こんな朝早くに何をしに来たんだい」
ウサギの獣人だからか身長はそこまで変わらないけれど、声と目つきがこわい。それでも私は用件を口にした。
「リンゴ一つください」
そう言うと、少しだけ彼女の表情がやわらいだ気がした。
「一つで良いんだね?」
「はい、私とこの子の分なので一つで足ります」
「そうかい。それじゃあ――」
次の瞬間、私の体に痛みが走った。
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